(Paul Thurrott)

 私は毎週のように,途方に暮れるほど多くのMicrosoftのプレス・リリースと声明,そのほかの情報を受け取る。ある決まりに従って,私は必ずしもすべてを読者にはニュースとして提供しない。その決まりは,同社が企業として継続的に作り出すプロモーションと読者の間のフィルタみたいなものである。私が想定する読者は忙しすぎて,道案内ソフト「Microsoft Streets & Trips」(該当サイト)の最新リリースや,IT腕時計「Smart Personal Object Technology(SPOT)ウォッチ」の最新パートナをベタぼめする記事など,気にしていられないのが普通だ。

年一度の金融アナリスト向け説明会に注目せよ
 しかし,年に一度,Microsoftは来年の計画をリークするイベント「Microsoft Financial Analyst Meeting」を開催する。イベントに参加したアナリストは恐らく1日に詰め込まれたプレゼンテーションを受けたあと,オフィスに帰って投資家とMicrosoft製品の大手企業ユーザーに対して,提言などをするのだろう。

 どんな大会社でも,やらなくてはならない外向けの気取ったものとは違い,MicrosoftがFinancial Analyst Meetingで公開する情報には,マーケティングの要素はほぼ全くない。さらにこのイベントは同社の業務内容を詳しく知らせる大事なものだ。Microsoftのお客として,あなたはこの情報を知っておく必要がある。

「確実に64ビットが増えるだろう」Gates会長
 今回のFinancial Analyst Meetingは2004年7月29日に開催され,同社の各部門の最高幹部がビジネスのコアを解説した。ある意味,このミーティングの最も面白い部分は,このイベントの最後の30分にある質疑応答のセッションだったろう。今年のイベントでは以下の情報が飛び出した。

 Microsoft会長兼チーフ・ソフトウエア・アーキテクトのBill Gates氏は,講演の初めに重要な技術シフトについて話した。「今日われわれが持っているものは,実質的にすべてのx86プロセッサに,今後2年間で組み込まれる当然の拡張である。そうして(AMDのAthlon 64やIntelのEM64T)ハードウエアを購入する人々が,32ビットOSや64ビットOSを稼働できるようになる。64ビットOSは32ビット・ソフトウエアを動かす。そしてゆっくりと,しかし確実に,各アプリケーションが64ビット用にリコンパイルされるのを目にするだろう。特にデータベース・ソフトは,メモリー・サイズが性能に差を与える」と語った。

 偶然の一致というわけではないが,Microsoftは同じ週の8月2日,「Windows Server 2003 for 64-Bit Extended Systems」というちょっと不細工な名前を付けた「Windows Server 2003」のx64バージョンの新しいベータ版を発表した(既報)。さらに同社は2005年,SQL Server 2005のx64バージョンを出荷する予定である。

XP Tablet PC Edition 2005の手描き機能
Webサービスと結びついた音声合成も進行中

 Gates氏は,Tablet PC用OSの次期バージョン「Windows XP Tablet PC Edition 2005」を大きく取り上げた。それは「Windows XP Service Pack 2(SP2)」をインストールして,それらのデバイス上で有効になるものだ。Gates氏が触れたように,Tablet PCは価格性能比が向上してきたが,最もエキサイティングなニュースは,XP Tablet PC Edition 2005の新機能の「Text Input Panel(TIP)」である。例えば,手書き入力したテキストをその場で編集できること――などである。

 Microsoftはさらにテキスト入力を越えて,究極のコンピュータ・インターフェースである“音声”に向かって開発を進めているという。音声合成へのMicrosoftのアプローチは,興味深いものだ。われわれは顧客をバックエンドのデータとサービスに,たやすく結びつけられるWebサービスを持っているが,そうしたサービスを使うには今のところWebブラウザその他のインタラクティブなアプリケーション・ソフトが必要で,もちろんそれらにアクセスするためのパソコンも必要である。

 音声合成を利用すると,こういったWebサービス用に,電話ベースのインターフェースを作れるだろうし,パソコンがなくても,どこからでもお客さんが利用できるようになる。MicrosoftのSpeech Serverチームのプロダクト・マネージャであるKevin Shaughnessy氏は電話経由で動くホテルの予約サービスをデモした。そのサービスは電話をかけた人と,その向こう側にいるコンピュータの間で,リアルかつ分かりやすい英会話を生成するために,音声合成を使っていた。そして,このサービスは,Web版である同じバックエンドのデータとWebサービスを使っているので,サービス全体を基礎から作り直さなくてもよいのである。

Windows XP SP2も言及される
 MicrosoftのWindows Client担当上級副社長のWill Poole氏は,Windows XP Service Pack 2(SP2)について詳細に解説した。私は以前からXP SP2について評価してきた。Microsoftが最終版を出すときもまた調べるに違いないが,XP SP2における先を予見したセキュリティの拡張は,「恩恵でもあり呪いでもある」と繰り返しいわせてもらいたい。

 このXP SP2を早く評価し,あらゆるアプリケーションとWebサイトの非互換性を洗い出し,その後で速やかに導入すべきだ。XP SP2は重要なアップデートであり,XPクライアントのセキュリティのベースラインを著しく上げるものだ。Gates氏もいうように,同社はこれまでに開発予算のほとんどを,SP2の無償アップデートに注ぎ込んだという。このことは,SP2が結果的に全く新しいバージョンのWindowsになった,という私の考えを裏打ちするものだ。

 管理者の立場から見ると,XP SP2は重要なマイルストーンだ。SP2は新しいGroup Policy Objects(GPO)を600超追加し,従来のWindows XPのほぼ2倍に相当する数だ。そしてPoole氏が触れたように,それらのGPOはすべてセキュリティと関係がある。あなたは1つのクライアントが複数の実行用プロファイルを持つように設定できる。例えば,1つのプロファイルはドメインに接続している場合で,もう1つのプロファイルは接続していない場合――というように設定できる。そうなるとあなたが,スターバックスや空港において,Wi-FiでIEEE 802.11bの無線LANのアクセス・ポイント(AP)経由で接続しようとするとき,接続の信頼性をロックダウンしたいと思うことがあるに違いない。

「なぜLonghornについて話さないのですか?」
 各講演者は,今回のイベントの間,盛んにLonghornについて触れたのに,新しく目立つ情報がほとんどなかった。このことは,何かを示していると思う。

 Gates氏はLonghornについて2度触れたが,目立つことはほとんど話さなかった。Poole氏はLonghornが現在のWindows OSよりも,もっと管理しやすく導入しやすくなるだろうとはいったが,詳しいことはほとんどいわなかった。Officeの開発責任者である同社のInformation Worker担当上級副社長のSteven Sinofsky氏は,Officeの次期バージョンは,Longhornのプレゼンテーション技術を活用し,共同作業でよりよいドキュメント作成を実現するだろうといった。MicrosoftのCEOであるSteve Ballmer氏は,Microsoft最大の長期にわたる賭けは,Longhornではなく,製品の刷新に関するもっと一般的なコンセプトだといって,Longhornを軽んじさえした。現実にBallmer氏がLonghornに触れたのは結局このときだけだったのである。

 Q&Aセッションの間は一応Longhornの話がすぐに出た。 この製品が相変わらず遅れていることを考えても,私は驚いていない。だが,同社の以前の宣伝で,筆頭にあったMicrosoft.NETと同じく,Longhornに触れられることが少なかったのは面白いと思った。同社のServer and Tools担当の上級副社長Eric Rudder氏は唯一の例外で,ほとんどの幹部は.NETについて全く話さなかった。

 「なぜ,同社がLonghornについて話さないのか」と聞かれた時に,Gates氏はLonghornテクノロジのコアはうまくできあがってきたがといったが,今以上に遅れが起きる可能性があることも示唆した。彼は「われわれの次のマイルストーンは,来年のいつごろかにベータ版を出すことだ。そして,それは機能のセットとスケジュールがかなり固められた時点になる。それはブレークスルーとなる機能を動かせるリリースだ。正確に中に何が入るか,ベータ版をいつ出すかと同じく,スケジュールはどんな風になるかを強く意識することになるだろう」と答えた。また,Ballmer氏はこう追加した。「それはわれわれがこれまでやってきたどんなものよりも重要なもので…全く新しい開発用プラットフォームであり,全く新しい開発用プラットフォームを作り上げるのは,ユーザーや管理者向けの機能を順々に向上させるよりも難しいことなのだ」と。

 幹部たちは今のところ,「Office 12」という開発コード名を付けられたOfficeの次期バージョンが,Longhornを必要とするかどうかについて,少し言葉を濁した。「それはベータ版の完成に近付いたときに,はっきり決められるだろう」とGates氏はいった。

 Microsoftのビジネスは,巨大で複雑で絡み合ったものだ。もし,あなたがMicrosoft製品を採用しているなら,同社がどこに向かっているか常に知っておくことは意味があることだ。Microsoftは各プレゼンテーションのビデオと公演内容をWebサイト上で見られるようにした。各幹部のMicrosoft PowerPointのプレゼンテーション資料のダウンロード版も用意されている(該当サイト)。