(Paul Thurrott)

 米国ワシントン州シアトルで2004年5月4~7日に「Windows Hardware Engineering Conference(WinHEC)2004」が開催された。同コンファレンスは歴史上PCハードウエアのドライバ開発者やエンジニア,その他ロー・レベルのハードウエア開発者にとっては,大きなイベントだった。しかし,事実上は参加者は少なく,最低限のプレスをカバーするだけにとどまっていた。

 しかし,2003年のWinHECからは,Microsoftが新しいLonghornの機能を公開する手段として使われ始めており,改めて目立つようになった。その戦略は成功している。  Longhornのように開発が長期間にわたる製品の場合,ロー・レベルのハードウエア開発者こそ,そのシステムの修正されたドライバ・モデルが,どういう方向に進むのかを最初に知るべき人々である。今年のショーで分かったことを以下に紹介しよう。

やっぱりLonghornが注目の的
 WinHEC 2004の参加者はLonghornアルファ版を受け取ったが,これは2003年10月の「Professional Developers Conference(PDC)2003」におけるプレビュー・リリース(同社はプレアルファ版と呼ぶ)以来の公開になる。この新しいLonghornビルド4074は,前のビルドに比べ,数多くの新しく実装された特徴があり,能力的にも強化されている。ただし,例えばWindows Future Storage(WinFS)エンジンまわりの作りは,まだ非常に低い性能しか出ない。ほかにもSyncManagerなどはこのリリースにはまだない。SyncManagerは将来,Windowsと様々な携帯機器(ノートPCやPDA,携帯型オーディオ機器「Portable Media Center」など)を同期させる機能を提供するものだ。

将来のPCの方向性が垣間見えた
 以前WinHEC 2003でMicrosoftと米Hewlett-Packard(HP)は,「Athens(アテネ)PC」と呼ぶ,新しいPCの初期のコンセプト・デザインを展示した。それは電話機能とメッセージング機能をワイド・スクリーン・ベースのPCシステムに統合したものだ。

 数カ月にわたりHPは,新しいコンセプトのPCを出荷できるようにハードウエアを仕上げているが,Athens PCの概念をわれわれが理解するのは,まだ数年先だろう。今年も出品されたが,HPの既存のPCに,LonghornのUIを組み合わせただけのものだった。

 MicrosoftはPCのハードウエアとソフトウエアがより密接になって動作することを保証するために,Longhorn開発サイクルの初期に,PCメーカーのパートナと共同作業を始めている。結果的にLonghornは,コンピュータに接続された電話などとシームレスに結びつく。例えば,Longhornはユーザーが電話に出ている間,すべてのPCの音を止めたり,ユーザーがWindows Messengerのステータスを「取り込み中」にセットしているときは,留守番電話機能を自動的に呼び出したりする。

 MicrosoftはタブレットPCやノートPC,デスクトップPC向けに,新しい補助ディスプレイを出すという予告もしている。それはPCの本体に組み込まれるもので,一目で分かるような関連情報を表示する。タブレットPCやノートPCでは,この小さなディスプレイがきょう体の外ぶたに付けられて,バッテリの状況や無線LANの範囲,時刻,個人情報管理ソフト(PIM)のデータ,デジタル・メディアの再生情報――などを,PC本体が停止している間も表示する。

 例えば,このスクリーンを使って直近の予定を3つ見たり,音楽の再生を制御したりできるはずだ。デスクトップPCでは,この補助ディスプレイはさらに細かい情報も表示するようになるだろう。PCショップの店先にどんなものが並ぶか,将来のホームPCのデザインを想像してみよう。

 それは例えば今よりももっとステレオ装置に似たものになる。ケースの外側に小さな液晶の表示があって,現在再生している曲の名前を示したり,電話の呼び出しを受けたことをあなたに知らせてくれたりするのだ。

 さらに将来のPCは,低消費電力CPUや低消費電力の他の部品,そしてファンを省いた設計のおかげで,今よりもっと静かになるだろう。Microsoftのグループ副社長であるJim Allchin氏は,PCメーカーに対してここ数年「静かなコンピューティング」の採用を呼びかけていた。そのかいあって,かなり多数のPCの改良がようやく実現したようである(このシヨーで見たハードウエア・メーカーを無作為抽出した結果の通りだとすればであるが…)。静かなPCは,以前よりうるさくないだけではない。多数のPCがあるオフィスでは,確実に生産性を向上させるし,頭痛や集中力の欠如といった関連する現実的な問題も減らすはずだ。

PC以外の機器に対応するWebサービス
 MicrosoftがPC以外の機器のためにWebサービスを採用したことは,何人かの批評家をきっと黙らせるだろう。これまではすぐサポートすると思われていなかった。

 現時点でMicrosoftは,Intel,Lexmark,リコーが共同で提案した「Devices Profile for Web Services」という規格をサポートしつつある。

 これにより,PC以外の機器でWebサービスを使おうとしたときに,まずネットワーク接続可能な機器とWebサービス間の基本的なレベルの相互運用性が実現する。「Webサービスは異種混在環境に橋渡しをして,ホーム・ネットワークや企業のイントラネット,そしてインターネット越しに情報を交換するときの一貫した方法を提供する」とIntelの副社長のGerald Holzhammer氏は言った。関連する話題として,MicrosoftはNetwork Connected Device Driver Development Kit(DDK)の最初のバージョンもリリースした。これは将来,ネットワークに接続された機器をWindowsシステムが自動的に発見・設定するのを助けるためにハードウエア・メーカーが利用するソフトウエアだ。

Palladiumが再び脚光を浴びる
 セキュリティはWinHEC 2004でよく議論される話題だった。ただし,MicrosoftはSasserワームの発生に関して不気味なほど静かにしていた。最近のWindows XP Service Pack 2(多数の電子的攻撃を防ぐようデフォルトで有効にされたWindowsファイアウォールなどを備える)の遅れが,その沈黙の大きな理由だったのだろう。

 MicrosoftはXP SP2を大々的に喧伝し,Windows Server 2003 SP1に備わる特徴のいくつかを話した。さらには「Next Generation Secure Computing Base(NGSCB)」(開発コード名Palladium)についても,ここ数カ月はおかしなくらい口をつぐんでいたのに,今度は何度か言及した。

 Microsoftの幹部たちは,PalladiumがLonghornのオプションのコンポーネントになるだろうということと,そのソフトウエアは安全なCPUとそのほかのチップで構成される特別なPCを必要とすると繰り返し語った。同社は,開発者が自分のアプリケーションを完全に書き換えなくても,Palladiumのセキュリティ機能に簡単にアクセスできるようにする予定で,この数カ月間,作業していたのだ。