(Brian Moran)

 米国のTimelineという会社と,それが持つ特許について聞いたことがおありだろうか? 恐らくほとんどの人は,聞いたことがないだろう。しかし,この会社は世界中のすべてのデータベースのプロたちに,大きな影響を与える可能性がある。この話は多数の係争中の訴訟があり,何千もの法律文書がある。従って今回の論評は,控えめ目にいっても不完全な要約であることに注意して読んでほしい。

3つの特許がデータベースの一般的な機能をカバー
 Timelineは,「データ・ウエアハウス・ジェネレータ」と「データ・マート・ジェネレータ」の技術に関して,3つの合衆国特許を持っている。それらの技術は,勘定系システムへの接続機能を提供するほか,データ・ウエアハウスと分散データ・マートの両方の生成を自動化するものだ。その特許技術を使えば,Timelineの顧客は自動的にSQL Serverの中に,分析用として財務情報のデータ・ウエアハウスを構築・維持できる。さらにウエアハウスと台帳を同期させ,ウエアハウスと関連するレポートをExcelベースで自動的に作成し,データとレポートをユーザーのデスクトップに届ける。

 Timelineによるとその特許は,ドライバを使ってソース(例えばトランザクション・システム)から応答させるような,普通のデータベースの機能をカバーしているという。他にも,応答から得た情報を利用してソースの構造を決めたり,逆にミドルウエア層の構造的な情報を使ってターゲットのデータ・マートやデータ・ウエアハウスを設計したりする。さらに,「データ・マートからのレポート出力」「ターゲットになるデータベースへの書き戻し」「複数のソースから1つのターゲットへデータを入れる」――といった一般的な機能をカバーしていると主張する。

 TimelineのWebサイトによると,様々な特許侵害の例が挙がっている。「ターゲットのデータ・マートの構築や最新化のスケジューリング」「責任範囲ごとのレポート作成データベースの出力」「自然言語によるクエリー」「クエリー結果のキャッシュ処理」「ソースからのデータのロード」「様々なドライバを選択する統一的なユーザー・インターフェースの使用」「ターゲット・データベース内での新しいテーブル作成」「テーブル生成とレポーティング・マートの最適化(例えば,要約の追加,ロールアップ,1つのインターフェースを介した新しいリレーション設定)」――などなどである。

複数のデータベースから
要約を作るシステムが該当

 Timelineのホームページ(該当サイト)では,関連する特許についての情報を提供している。それぞれの特許の全文は,米特許商標局(United States Patent and Trademark Office)のWebサイト(http://www.uspto.gov/)から入手できる。あなたご自身の意見を固めるため,その特許をご覧いただくことをお勧めする。私が調べたところ「複数存在する上流のトランザクション・システムから得たデータを,要約してレポート処理する環境を構築するとき,その構築を自動化するツールを使う人はだれでも,同社の特許を侵害している可能性がある」とTimelineが主張していることが分かった。

 私は法律家ではないので,この意見は法的に正しくないかもしれないが,入念に調べた結果,この包括的な主張は,恐らく市場にあるほとんどすべてのデータ・ウエアハウジング製品が対象になっている。1998年時点のTimelineのオリジナルの特許は,金融サービス分野の狭い範囲の利用に限定されていた。そして1998年以降にその主張は,一般的なデータ変換アーキテクチャにも当てはまるように拡大された。

 その拡大された特許の意味を考えてもらいたい。多分あなたはオリジナルのトランザクション処理型のシステムから生成した別のデータベース内に要約の形でデータをまとめるようなレポーティング・システムをお持ちだと思う。

既にライセンス料は支払われた
 私は最初,米Microsoftやその他の主要なデータベースやETL製品(訳注:extraction,transformation,loadingの略で,データ・ウエアハウス構築のための抽出・変換・加工などの工程を指す)のベンダーたちが,この特許と戦うのではなく,その特許技術を使うためライセンス料を支払ったことを知ってがく然とした。

 公的な記録では,米Oracleがこの特許のライセンス料におよそ100万ドルを支払ったことになっている。Microsoftは当初,Microsoftのソフトウエアとツールを使う自分たちの顧客やサード・パーティのソフトウエア開発者に対して,その特許をサブライセンスできるものと理解して,その特許のライセンスを受けた。Microsoftはその特許の出願が顧客に直接に影響しないことを確実にするために,サブライセンスを無償で提供するつもりだったのだ。Microsoft社内の人間によれば,同社はこの特権のために他のベンダーたち以上にかなり多額の金(正確な額は未公表)を支払ったという。Microsoftは1999年6月にライセンス契約に署名したすぐ後で,Timelineに対して訴訟を起こしたが,その理由はTimelineがMicrosoftはサブライセンスする権利を持っていないと主張したからである。MicrosoftがTimelineに対して起こした訴訟に関する追加情報は,Microsoftニュースリリースを参照してほしい(該当サイト)。2002年12月にシアトル高裁はこの件に関してTimelineに有利な裁決をした。

特許の有効性に関して係争は続く
 Timelineは現在,関連する特許権の侵害でカナダのCognosを提訴している。Cognosはその特許が無効であると主張して,特許使用料の支払いを拒否した。Cognosは2004年1月初旬,「当該特許の不当な表明」を主張してTimelineを反訴した。Cognosはこの反訴についてプレス・リリースを出さなかったが,1月8日にTimelineの代理を務めている会社が反論を公表している。

 Cognosが展開している論証は面白い。それが特許の有効性を問題にしているからだ。Cognosが勝てば,Timelineにとっては重大な問題になる。というのは,同社は特許侵害で他社を訴えることで相当な金を得てきたからだ。Timelineは2003年夏に「特許のライセンスを進めることで,今日までに1200万ドル以上の総利益を上げており,さらに将来は数百万ドル以上の利益をもたらす可能性がある」といった会社プロフィールを公表している。

 この係争中の訴訟について知っているか,気がついている業界人がほとんどいないことを,私は不思議に思っている。複数のデータベースからのデータを要約・統合するような,レポーティング・データベースの構築ソフトを使っているなら,これらの特許の影響を受けると思う。既存の全業界のコンピュータで生成された,全レポートの将来を決めるということは,私にとってはビッグ・ニュースである。

 Timelineは,Microsoftや他のサード・パーティ製品を使ったソリューションを構築したという理由で,ユーザー企業を提訴していないことを,私は指摘しておきたい。Timelineが起こした訴訟は,OEM先とISV(独立系ソフトウエア・ベンダー)に対するものだった。ただし,それはTimelineの訴訟戦略が,将来も変わらないことを意味するのではない。とはいえ,ご自分が取り組んでいるすごくクールなデータ・ウエアハウジングのプロジェクトを「停止しなくちゃ」と即断する必要はない。少なくとも,まだ先の話だ。