■大手通販会社のニッセンでは,従来NTドメインを限界まで利用するヘビーな使い方をしていた。管理できるオブジェクト数の限界,管理を徹底させるがゆえのドメインの複雑な信頼関係,アカウント設定の変更が行き渡るまでの遅延など,数々の限界に直面していた。
■同社は2003年5月より新たにWindows Server 2003によるActive Directoryの導入をスタートした。これによりシングル・ドメイン,グループ・ポリシーの活用による簡単で高度な管理を可能にした。
■Exchange Serverも従来の5.5から2000に移行し,安定したコミュニケーションのインフラを実現した。

(奥津 和真)


通販事業部インターネット事業推進部取締役部長
市場 信行氏

 「京都人は,おしゃべりで会議が長い。今までは,朝9時から夕方5時まで会議をしていたが,ITを活用するようになって2時間になった」。京都市に本社を構える大手通信販売会社のニッセン。同社の通販事業部インターネット事業推進部取締役部長の市場信行氏は,情報インフラによって会社が変わっていく様子を熱っぽく語った。おっとりとした京都人ではなく,そこには,労働生産性を上げるため活動的でダイナミックな企業風土が見える。

 ニッセンは主婦層を中心に2000万人を超える顧客を持ち,順調に収益を伸ばしている。通販会社にとって,顧客データを中心とした情報システムは生命線だ。同社の情報システムは,通販勘定系,通販情報系,情報インフラ系,インターネット系に分かれる。通販勘定系では1992年から脱メインフレーム化を進め,1999年にオープン・システム化を達成した。通販情報系では90年代半ばからデータ・ウエアハウスを活用した顧客分析を始めている。またインターネット系では,通販勘定系と連携しつつ,.NET Alertを使った革新的な仕組みを準備中だ。そして今回,情報インフラ系システムにWindows Server 2003が導入されることになった。


情報システム部情報企画チーム
横手 慎一氏

複雑になっていたNTドメインの信頼関係
管理オブジェクト数も限界に

 同社のインフラはWindows NT 4.0ドメインによって構成されている(図1)。数多くのWindows NT Server 4.0やWindows 2000 Serverを搭載したメンバー・サーバーがあり,その上では,Exchange Serverによるグループウエア,OracleやSQL Serverなどによるデータベース,IIS(Internet Information Server/Services)/WebLogicによるアプリケーション・サーバーなどが稼働し,同社の業務を支えてきた。特に,Exchange Serverによる社内のコミュニケーションが,会社の考えを末端まで伝えることに大いに役立っているという。PowerPointで作成した会議の資料を事前に配布する。するとそれに対してすぐに返事がくる。社内では,配布資料に対して採点を付けて返事をするのが習慣になっているのだという。このような密度の高いコミュニケーションが,冒頭で紹介した“会議時間の短縮”につながっている。

 ところが,これは総体として限界に近付いていた。ニッセンでは,複数拠点に勤務する正社員,契約社員,自社のコール・センターのパート社員,および関連会社社員の全員に対して,3700を超えるアカウントを発行し,200台弱のWindowsサーバーが稼働している。要となるのは,Exchangeによるグループウエアであるが,業務パッケージを利用しているものは,会計業務や貿易関連業務向けの一部のものだけで,ほとんどはすべて内製のアプリケーションである。

Active Directoryで解決したい
 Windows Server 2003を導入した狙いは,なんといっても管理の手間を抑えること。同社にとってWindows Server 2003のメリットとは,Active Directoryのメリットといってもいいだろう。これまでのNTドメインからActive Directoryになることで,運用管理が軽減される。


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図1●



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図2●ニッセンにおけるWindows Server 2003導入のメリット

 今回のWindows Server 2003の導入の企画を担当した同社情報システム部情報企画チームの横手慎一氏によると,アカウント管理とサーバー管理の両方で手間が減るという。社員のアカウント管理に関して,「以前であれば社員の所属部署は固定的でしたが,最近は社内の組織が非常にダイナミックになってきました。様々な形態の組織が必要に応じて短期間で構成されています。当然システムにはそれを支えるだけのスピードが要求されます。それに組織がマトリックス的になってきました。これらの動きに対応してアカウントの権限などを常に簡単に変更するには,Active Directoryが必要になります」(横手氏)。部門だけでなく拠点や社員区分などを考慮して,アクセス・レベルやセキュリティを決めていくには,Active Directoryやグループ・ポリシーが有効だ。

 サーバー管理に関しても,「サーバー台数が増えてきたため,ドメインの管理が非常に煩雑なっていた」(横手氏)。同社はリソース・ドメインとアカウント・ドメインを分けた信頼関係の設定を行っている。また,関連会社のドメインは外部へ委託しており外部委託ドメインの配下にある。関連会社とニッセンとの間の信頼関係もあるので,整理されているとはいっても複雑であることは否定できない。もう1つの問題は設定変更が全体に行き渡るのに時間がかかっていたことだ。コール・センターや物流センターなど複数の拠点にドメイン・コントローラを置いている状況では,ドメイン設定変更の伝播の遅延がある。「一体,いつ変更が更新されるのか分からないこともあった。経験則で遅延を考慮して,設定変更の反映を行う必要があった」という。

 管理できるオブジェクトの数も徐々に増え,NTの限界に近付いている課題もある。旧システムで約1万7000件のオブジェクトがあり,Windows NTの限界である2万件に近付きつつある。他にもNT 4.0のサポート終了も気がかりだ。これらWindows NT Server 4.0の抱えている課題と,それを解決するWindows Server 2003の導入メリットをまとめると,(図2)のようになる。