米MicrosoftのBill Gates会長兼チーフ・ソフトウエア・アーキテクトは6月28日,東京において「インターネット安全運動」実行委員会が主催したシンポジウムで「未来のインターネット社会への提言」と題する基調講演を行った。Gates会長は「今後,インターネットの活用がますます進むことは間違いないが,そのためにはセキュリティの問題を解決する必要がある。セキュリティ問題はテクノロジだけでは解決できない。ユーザーの教育や,行政との連携が不可欠だ」と語っている。

 Gates会長は,同社が現在実施しているセキュリティに対する取り組みを説明する前に,セキュリティ問題はテクノロジだけで解決できないことを強調した。インターネット上で機密情報をやり取りしたり,クレジット・カードを使って決済したり,ソフトウエアをダウンロードして使ったりする上で,ユーザーはそれらの正しい使い方を理解している必要がある。これらの啓蒙活動には,ソフトウエア産業と政府機関との連携が欠かせないと語った。Microsoftは同日,警察庁情報通信局情報技術課と技術協力協定を締結しているが,Gates会長は「日本の警察と協力する上での,大きなマイルストーンだ」と主張した。

 この技術協力協定は,Microsoftが今後,警察庁でサイバー犯罪を担当する情報技術解析課に対して,(1)Microsoft社製ソフトウエアのセキュリティ情報の提供,(2)ホットラインの設置,(3)職員の技術トレーニング――などを行うものであるという。

 Microsoftによる技術面での取り組みも説明した。Gates会長によれば,セキュリティ機能を強化したWindows XP Service Pack 2(SP2)のダウンロード数は2億を超え,4月にリリースしたWindows Server 2003 SP1のダウンロード数も150万に達する。また,スパイ対策ソフトウエア「Windows AntiSpyware」のベータ版のダウンロード数も週間100万本に達するという。セキュリティ機能は,次世代Windowsである「Longhorn」でも強化する予定だ。

 しかし,新しいソフトウエアでセキュリティを強化しても,ユーザーに使ってもらえなければ意味がない。ユーザーの認知度を向上させるために,セキュリティの啓蒙サイト(該当サイト)を設けているほか,インターネット安全運動のような業界活動にも積極的に参加していると述べている。

 Gates会長は,ユーザーへのメッセージとして3つのことを強調した。1つ目は常に安全対策を意識し,安全確保に関する情報を身の回りの人と共有すること,2つ目は常に最新のセキュリティ知識を入手して,ネット詐欺やオンライン犯罪などの最新の手口を理解すること,3つ目は常にセキュリティを強化した最新のソフトウエアを利用することだ。インターネットの持てる力を,セキュリティ・リスクによって損なわないためには,ユーザーがこれらを心がける必要があると力説した。

 基調講演の締めくくりは,Gates会長が慶應義塾湘南藤沢中・高等部の学生の質問に答えるというものだった(写真)。学生の質問は,(1)インターネットの安全性を促進する上で,何か日々行うべきアドバイスはありますか?,(2)インターネットの将来はどうなりますか?,(3)平均的な日本の高校生はインターネットのリスクについて理解していない。オンラインの安全について学べる何か例を挙げてください――というもの。

 (1)の質問に対してGates会長は,「常に最新の情報を入手し,それをお互いに共有することが重要だ」と答えた。(2)の質問に対しては,「現在,テレビ放送や書籍を通じてしか入手できないような情報も,すべてインターネットで入手できるようになり,そういった情報は,ユーザーが自由にカスタマイズできるようになる」と答えた。(3)の質問に対しては,「ソフトウエアは常に最新の状態にアップデートせよ,知らないサイトからダウンロードしたソフトウエアを実行してはならない,オンライン・チャットなどでの見知らぬ人とのコミュニケーションに注意せよ,ネット上でクレジット・カードを利用するときには細心の注意を払うようにせよ」と答えた。

(中田 敦=日経Windowsプロ


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