米Apple Computerの音楽配信サービス「iTunes」と携帯音楽プレーヤ「iPod」によって,重大な痛手を負った米Microsoftは,その勢いを回復するためにデジタル音楽戦略を強化している。

 戦略強化の第1段階は,私が以前に報じたように,2005年11月にベータ版を公開するWindows Media Player(WMP)11である(既報)。開発コード名は「Polaris」で,元々はLonghornに含まれる予定だった。

 戦略強化の第2段階は,MSN Musicの購読サービスである。そして第3段階は,今週のThe Wall Street Journalが報じた新しい担当者の任命である。Microsoftは音楽ビジネスを進めるために,Xboxの達人であるRobbie Bach副社長ホーム&エンタテインメント担当を任命した。これらの施策は,Appleとの全面戦争を意味している。

 Appleは先行し,最初に携帯用のMP3プレーヤiPodによって,そして世界初の実用的なオンライン・ミュージック・ストアによって,最終的にオンライン音楽ビジネスを支配した。このときMicrosoftは静観していた。

 これまで,Appleは,ほとんどのアナリストが将来主流になると指摘した購読サービス・モデルを避けていた。それで問題はなかった。Appleは,オンライン・ミュージック・ストアの82%を支配して4億3000万曲以上を販売した。同社は携帯音楽プレーヤの市場の76%を支配して,1600万台のiPodを販売した。それらの数字は,Microsoftが実現したように感じる。しかし,これは,より小さい会社が独力で記録したものだ。

 1600万台という数字は,特に驚異的だ。Microsoftはこれまでのところ,パソコン産業で実施したのと同じ戦略をデジタル音楽で使ってきた。すなわち,サービスと製品を有機的に結びつける生態系システムと呼ぶものの基礎を作った。その後,多くのパートナに顧客を引きつけさせた。ここに1つの問題があった。Microsoftがパソコン産業で採用した戦略は,デジタル音楽市場では,うまく働かなかったのである。これに対してAppleの独自戦略は,はるかにうまくいっていることが証明された。

 Microsoftは,こうした状況を変えるつもりだ。第一歩は,長い間計画していた音楽購読サービスである。去年の夏にMSN Musicを公開したとき,Microsoftは既に,そのサービスについて検討していた。iTunesのように,今日のMSN Musicは,99セントで1曲購入できる伝統的なアラカルトのサービスである。将来,MSN Musicは,Microsoftと組んだNapsterやYahoo!Musicが提供するものと同様の音楽購読サービスになるだろう。

 Microsoftは,パソコン・ベースのデジタル・メディア・コンテンツのための「デジタル・ハブ」となるように,今度のTVゲーム機Xbox360を設計した。コンテンツとは例えば,音楽,ビデオ,写真,テレビ放送,録画したテレビ番組などである。Xbox360は,AppleのiPodやソニーの携帯ゲーム機PSPなど競争相手の製品と統合可能になるかもしれない。さらにAppleのように,Microsoftは携帯電話メーカーとの関係を強化しようとしている。その携帯電話メーカーは,四半期ごとに何億台もの端末を販売している会社である。

 携帯電話が,より洗練されると,顧客は様々な要求を出すだろう。例えば,ダウンロードでデジタル音楽を購入するようなものである。AppleとMicrosoftは,両社とも携帯電話市場の一部を攻略することを望んでいる。しかしMicrosoftは既にそうするための有用な技術を持っている。恐らく,現時点でのMicrosoftは,まだAppleに負けていないだろう。

 Microsoftのかたくなに競争的なスタイルは,結局のところ,Appleのデジタル音楽市場情勢での優位性を弱めるかもしれない。しかし,Appleは優位性を保っている。少なくとも現在はそうである。今年,Appleでは,デジタル音楽の販売が初めてコンピュータ製品の販売をしのぐ見込みだ。

 Microsoftが音楽戦略を強化する計画を立てているにもかかわらず,顧客はAppleの簡単で,上品な製品を捨てたりはしない。少なくともこの数年間,Appleは何も恐れることはないだろう。

(Paul Thurrott)



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