Jim Allchin氏
 米Microsoftのプラットフォーム部門担当グループ・バイスプレジデントであるJim Allchin氏は4月25日(米国時間),米シアトルで開催されたハードウエア開発者会議「WinHEC(Microsoft Windows Hardware Engineering Conference) 2005」にて記者会見を行い,今後のWindowsの開発方針などを説明した。Windows OSの技術統括責任者であるJim Allchin氏は「64ビット化はわれわれの環境に非常に大きな変化をもたらす。64ビット化への移行は早いだろう」と見通しを述べた。

 Allchin氏は64ビットへの移行について「今年中には,サーバー用のプロセッサはすべて64ビット機能を持つようになるし,来年にはデスクトップ用のプロセッサもそうなるだろう」と語った。また,OSも64ビット化することによって,パフォーマンスが向上するだけでなく,セキュリティも向上すると語った。

 セキュリティ強化点の1つとして取り上げたのが,「Windows XP Service Pack(SP)2」や「Windows Server 2003 SP1」で追加された「DEP(データ実行防止)」機能である。この機能自体は,32ビットOSでも利用できるが,この機能を持つプロセッサは現時点では64ビット・プロセッサがほとんどである。また,今後の64ビットOSの主流となるWindows XPとWindows Server 2003のx64 Editionは,32ビット・アプリケーションも利用できるが,システムを変更したりカーネル・モードで動作したりするようなプログラムは64ビット化が必要である。Allchin氏はこのことに触れながら「x64 Editionでは,システムを変更する手法も,64ビット対応が必要になる。これは見方を変えると,システムを改ざんしようとする悪意のある攻撃も,64ビット対応が必要になるということである。64ビット化によって,悪意のある攻撃も減少するだろう」と語った。

 また,「64ビット化によって,利用できるメモリー空間が拡大する一方で,物理メモリーの低価格化も,急激に進行している。じきに,主記憶を5Gバイトでも10Gバイトでも搭載するようになるだろう。こうなれば,現在はハードディスクに記録されているユーザー・ドキュメントを,すべて主記憶に展開できるようになり,ドキュメントの検索などが高速化される。これは,非常にエキサイティングなことだ」(Allchin氏)と語った。

 Allchin氏は,Longhornに関する見通しも語った。Allchin氏によれば,Longhornの柱は
(1)It just work(どこでも使える)
(2)Safe & secure(セキュリティ)
(3)Easy to deploy & manage(簡単な展開と管理)
(4)Client experiences at work, at home, and on the go(仕事でも家庭でも屋外でも同じ使い勝手)
(5)The right server for your business(ビジネスに適したサーバー)
(6)OS platform for the next 10 years(次の10年間の主流となるOS)」
であるという。

 It just workとは,Windowsがどこでも確実に使えるようになることを指す。例えば,現在会社と家庭で無線LANの設定を変更するといった作業は手作業で実施する必要がある。しかし,Longhornでは利用環境の変更に応じた適切な設定変更が容易になるとしている。

 Safe & secureに関しては,「Secure Start Up」という機能を新たに追加する。これは,「Next Generation Secure Computing Base(NGSCB)」と呼ばれた技術の一部である。TPMセキュリティ・チップを使ったファイル・システムの暗号化などであり,「タクシーにモバイル・パソコンを置き忘れても,情報漏えいが起きなくなる」と述べた。

 なおAllchin氏は,「Securityとは,ソフトウエアを攻撃に強くすることであり,Safetyとは,ユーザーを様々な危害から守ること」と区別して発言している。これは,Longhornでは,Securityだけでなく,Safetyの機能をより強化するという意図がこめられている。

 Easy to deploy & manageについては,Longhornで強化するクライアント・パソコンへのイメージ展開の機能を取り上げた。クライアント・パソコンに対して,ハードディスク・イメージを展開する場合,これまでは各国語のイメージを作成する必要があったが,Longhornでは,1つのイメージだけで,複数言語版のWindowsが展開可能になる。これをWW(World Wide)バイナリと呼んでいる。「現在,情報システム部門では,コスト削減への関心が非常に高まっている。Longhornではこのニーズにもこたえる」という。

 またAllchin氏は,Longhornには「ホット・パッチング」という新機能が搭載されると述べた。これは,Windowsの修正パッチの適用時に必要とされるシステムの再起動(リブート)を減らすための機能だ。「Longhornでは,Windowsのサービスにパッチを適用する際に,そのサービスをいったん停止してコードを変更するので,リブートなしでパッチを適用できる。もし,サービスを停止したくない場合は,ホット・パッチングでパッチ適用を予約しておけば,次回の再起動時にパッチが適用される」という。

 Client experiences at work, at home, and on the goとは,仕事場,家庭,屋外で使うパソコン間での,設定やデータのやり取りを容易にするものだ。利用環境に適した状態で,どこでも適切な情報や使い勝手が利用できるようになるという。これのサーバー版の概念がThe right server for your businessで,企業規模や企業形態にあったサーバーの設定が容易になる機能だ。

 OS platform for the next 10 yearsは,Longhornがこれから10年間のOSの基本となることを指している。Longhornは,32ビット版と64ビット版が同時にリリースされる予定であり,64ビットの普及がより拡大する見込みだ。

 なお,今回のWinHECで公開されたLonghornの評価版は,ドライバを作成するためのバージョンであり,API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)は,すべて固まってないという。秋のPDCで公開される評価版では,APIが決まると述べている。また,Bill Gates会長は,Longhornの正式版について,2006年のホリデー・シーズンという目安を示したが,Allchin氏「現在われわれが重視しているのは,第一にクオリティであり,その次がスケジュールだ」と述べている。セキュリティや信頼性などのクオリティ上の問題がクリアできなかった場合,スケジュールが延期される可能性があることを示唆した。

 また,現在EUでは独占禁止法訴訟の関連で,Windows Media PlayerがバンドルされないWindows XPも出荷されている。このことについて報道陣から質問されたAllchin氏は「Longhornにはメディア・プレーヤが含まれる予定だ」と語った。

(中田 敦=日経Windowsプロ
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