米MicrosoftのBill Gates会長兼チーフ・ソフトウエア・アーキテクトは4月25日(米国時間),米国シアトルで開催されたハードウエア開発者会議「WinHEC(Microsoft Windows Hardware Engineering Conference) 2005」で基調講演を行った。Gates会長は,Windows XP Professional並びにWindows Server 2003の「x64 Edition」を正式発表したほか,x64 EditionやWindowsの次期バージョンである「Longhorn」(開発コード名)のデモを実施し,「64ビット・コンピューティングやLonghornによって,パソコンのセキュリティや信頼性,性能が向上する」と語った。

Windows次なる10年の方向を示す


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写真1
 基調講演でGates会長(写真1)はまず,Windowsが3番目の10年期(Third Decade)を迎えたことを宣言した。同社がWindowsの最初のバージョンをリリースしたのは,1985年のことである。Windows 95が登場する1995年までの最初の10年間は,「パソコンの処理能力などが不足していたため,非常に難しい時期だった」(Gates会長)と語った。その次の10年間については,インターネットの普及などに伴い「スケジュール管理や調達などはパソコンやインターネットを使って行うという,“デジタル・ウェイ”に関する常識ができあがった」(同)とまとめた。そして来る10年は「64ビット・コンピューティングによって,Windowsのセキュリティや信頼性,パフォーマンスがより高まる」(同)と強調した。

x64 Editionを正式発表
 その上でGates会長は,Windows XP ProfessionalとWindows Server 2003のx64 Editionを正式発表した。x64 Editionは,AMD64やIntel Extended Memory 64 Technology(EM64T)など,x86アーキテクチャを拡張した64ビット・プロセッサ用のWindowsである。Gates会長はx64 Editionで性能向上が見込める分野として,サーバー向けではデータベース,ターミナル・サービス,ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)などの業務アプリケーション,Active Directory,Webホスティング,科学計算を挙げた。また,デスクトップ向けでは,CAD(コンピュータ支援設計)などの設計ソフト,3Dゲーム,ビデオ編集などを挙げた。Gates会長によれば,ターミナル・サービスの性能は,x64 Editionで2.7倍向上するとしている。


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写真2
 基調講演で実施されたx64 Editionのデモは,同一ハードウエアであっても,x64 Editionにネイティブで対応したアプリケーションを使う方が,パフォーマンスが大幅に向上することを示すものであった。64ビット版の3D CG制作ソフト「LightWave 3D64」をWindows XP x64 Editionで稼働させたデモでは,64ビット版の方がより高精細な画像をリアルタイムでレンダリングできることが示された(写真2,左の画面は32ビット版,右の画面は64ビット版)。また,32ビットなら3日はかかっていたレンダリング作業も,64ビットなら「1晩で済むようになる」という。

 SQL Server 2005のx64 Edition版のデモも実施された。このデモでは,トランザクション処理がより高速になることや,クライアント数が増加した場合でも,CPUの使用率が32ビット版の約4分の1に抑えられることなどが示された。

 Gates会長はx64 EditionがMicrosoftにおいて既に広く使用されていることも披露した。SAP R3のほか,MSN SearchやMSN Messengerのサーバー,microsoft.comのWebサーバーがx64 Edition上で稼働しているほか,5000台のx64 Editionパソコンが使用されているという。MSN Messengerの場合,OSをx64 Editionに変更することで,2倍のクライアントを処理できるようになったという。

LonghornのGUIとフォルダ新機能をデモ


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写真3

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写真4
 基調講演では次期Windows「Longhorn」のデモも実施された。デモは2種類あり,1つはLonghornのグラフィックス・ユーザー・インターフェース(GUI)に関するもので,もう1つはフォルダの新機能に関するものだった。

 LonghornのGUIに関しては,半透明ウインドウ(写真3)や「ハイDPIサポート」が披露された。ハイDPIサポートとは,パソコンのディスプレイ画面のドットが高密度になったものに対応する機能のこと。アプリケーションの画面を拡大表示したときに,画質が劣化しない。解像度の高いディスプレイ上では,アプリケーションの画面は非常に小さくなりがちだ。Longhornではアプリケーションのコードを書き換えなくても,アプリケーションの画面をモニターの解像度に合わせて拡大/縮小できるようになるという。デモでは,写真4のようにWindowsのアクセサリである電卓を拡大した画面のデモが実施された。

仮想フォルダで縦横にファイルを整理
 もう1つのLonghornのデモは,フォルダの新機能に関してGates会長は「Longhornではアイコンを超える視覚化(ビジュアライゼーション)と,フォルダを超える組織化(オーガナイゼーション)を提供する」と語っている。既にWindows XPでも画像ファイルやオフィス文書についてはサムネイルをアイコンの代わりに利用可能であるが,Longhornでは,これらのサムネイルを自由に拡大/縮小できるようになる(写真5)。


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写真5
 またLonghornでは「仮想フォルダ」という新機能が搭載される。これは,ハードディスク上の全文書をキーワードや著者(author)といったメタ・データで分類して,分野ごとに仮想的なフォルダを見せるという機能である。例えば,authorという仮想ディレクトリを開くと,「author01」「author02」といった著者ごとの仮想ディレクトリが表示され,そのディレクトリを展開すると,その著者が作成したドキュメントの一覧が表示される。

 Gates会長によれば,Longhornには「WinFX」という新しいAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)が実装されるが,既存のWin 32 APIもLonghorn用に拡張されるという。このほか,Longhornには,Webサービスのセキュリティ仕様である「WS-Discovery」に標準で対応するほか,コンピュータの管理者権限を必要なときだけ使うようにすることで,アカウントのセキュリティを保護する機能が追加されるという。またWindows XP SP2で追加された「Windowsファイアウオール」も機能強化され,アウトバウンド・パケット(パソコンから外部ネットワークに送信されるパケット)も制御できるようになるとしている。

 WinHECでは,Longhornの新しい評価版がリリースされているが,正式な「ベータ1」は2005年夏に出荷されるという。9月のプログラマ向け開発者会議「PDC」でも,新しい評価版がリリースされ,その後に登場する「ベータ2」から,一般ユーザーを対象としたベータ・テストが始まる予定。Longhornの正式版出荷については「2006年のホリデー・シーズン」と説明した。なお,これらのリリース・スケジュールは,デスクトップ版(パソコン版)に関するもので,サーバー版のリリースはデスクトップ版よりも後になる予定だ。

(中田 敦=日経Windowsプロ
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