米Microsoftの会長兼チーフ・ソフトウエア・アーキテクトであるBill Gates氏は,1月5日夜(米国時間)に,Consumer Electronics Show(CES)で基調講演を行い,同社が2004年10月に発表した「Digital Entertainment Anywhere」構想の進捗状況や,2005年の興味深い施策についていくつか明らかにした。施策のキーとなるのはデジタル家電メーカーやコンテンツ・ホルダーとの提携であり,それらのいくつかはかなり驚かされるものであった。

売り上げが好調なMedia Center

 Gates会長はまず,2004年10月の「Windows XP Media Center Edition 2005」の発売以来,「Media Center PC」のセールスが前年同期比50%増と好調であることを強調した。Microsoftによれば,ハードウエア・パートナがこれまでの2年間に販売したMedia Center PCの台数はおよそ100万台であるという。しかし,2004年10月12日に開催したDigital Entertainment Anywhereの発表イベントから2カ月間だけで,PCメーカーは約50万台のMedia Center PCを販売したという。セールスのペースがこのまま続けば,Media Center PCはニッチ的な存在を脱し,パートナにとってより有望なプラットフォームになるだろう。

 Windows XPやMedia Center PCでデジタル・メディア・コンテンツを利用する基盤ソフト「Windows Media Player(WMP) 10」の出だしも好調だ。2004年9月のリリース以来,9000万人のユーザーがWMP 10をダウンロードした。WMP 10を使うと,音楽やビデオなどのコンテンツを販売する様々なオンライン・ストアにアクセスできる。

 Microsoftは,Digital Entertainment Anywhereを実現するために,数多くの興味深いパートナシップを発表している。韓国のLG電子は,Microsoftとの間でDVDレコーダー・セットトップ・ボックスに関する提携を発表した。LG電子は,「Media Center Extender」のような,Media Center PCやWindows XPパソコンに蓄積されたTV番組などのデジタル・コンテンツに,家庭内LAN経由で容易にアクセスできるDVDレコーダーを開発する。Microsoftによれば,このDVDレコーダーは年末商戦を目指して2005年秋に発売される予定だという。価格は明らかにされていないが,「アグレッシブなもの」と聞いている。

MTVやTiVoとの提携や協業を発表

 基調講演では続いて,米MTV Networksとの広範なパートナシップが発表された。MTV Networksは,「MTV」や「VH-1」,「Comedy Central」といったケーブル・テレビ局を保有する企業だ。MTVは今後,オンライン・ミュージック・ストアなどの様々なオンライン・サービスや製品において,Windows Media Audio(WMA)やWindows Media Video(WMV),Windows Media Digital Rights Management(DRM)技術を利用するという。加えて,MicrosoftはMTVと協力して,MTVのオリジナル・コンテンツを,様々な手法でユーザーが入手できるようにする。Microsoftの広報担当者は「これは全面的な提携だ」と筆者に語っている。MTVの有料視聴者は,「PlaysForSureロゴ」(Windows Media Player 10に対応するデバイスやサービスであることを示すロゴ)のが入ったデバイスで,MTVのコンテンツにアクセスできるようになる。このデバイスとは,Windowsベースのデスクトップ・パソコンやノート・パソコン,ポケットPC,Windowsベースのスマートフォン,Portable Media Centersなどである。

 筆者が全く予想していなかったことだが,Gates会長は,MicrosoftがTiVoと「TiVoToGoサービス」に関して協業していることを明らかにした。これは,Windowsのユーザーが,TiVoで録画したTV番組に,Windowsベースのパソコンからアクセスできるようにするものである。Microsoftの広報担当者は,「われわれは,Windows XPやMedia Center PCのユーザーが,TiVoで録画したコンテンツにアクセスしたり,Windows Mobileデバイス(ポケットPCやスマートフォン,Portable Media Centerを含む)にTiVoの番組をコピーしたりできるようにするつもりです」と語っている。

 TiVoToGoサービスとの連携の仕組みはこうだ。TiVoToGo Desktopソフトウエアは,TiVoレコーダーとWindows PCとを連携する。TiVoToGo Desktopソフトウエアを使ってTiVoメンバーシップにログオンすると,TiVoで録画したコンテンツを,Windows Media Player 10を使って他のポータブル・デバイスやパソコンに自由にコピーできるようになる。筆者が驚いたのは,MicrosoftがTiVoのような競合ベンダーと提携したことだ。Microsoftの広報担当者は「TiVoのような会社とのあいだに架け橋を作らなければ,Digital Entertainment Anywhereは実現できない」と語っている。

 MSNに関しては「MSN Video Download」と呼ばれる新サービスがプレビューされた。詳細は不明で価格も分からないが,このサービスの利用者は,Microsoftのパートナが提供するニュースやスポーツといったビデオ・コンテンツにアクセスできるようになる。コンテンツはパソコンやMedia Center PC,Media Center Extenderで見られるだけでなく,ポケットPCやスマートフォンといったPlaysForSure対応デバイスにコピーできる。パートナは,ディスカバリー・チャンネルやFOXスポーツ,タイタンTV,XMサテライト・ラジオ,米Yahoo!などで,これらは「Windows XP Media Center Edition 2005's オンライト・スポットライト」と呼ばれている。

 Media Centerに関連する発表は,他にも多数あった。米Logitech(日本での社名はロジクール),蘭Philips,米Niveusなどが,Media Center PC用の高性能のユニバーサル・リモコンをリリースする予定だ。このリモコンには,双方向通信機能が備わっている。例えばあるPhilipsのリモコンには液晶ディスプレイが搭載されており,Media Center PCに保存されている楽曲のリストを表示できる。このリモコンは,Media Center PCからメタ・データを受信しているわけだ。ほかのPhilipsのリモコンは,ユニバーサル・プラグ&プレイ(UPnP)に対応しており,Media Center PCにある音楽データを再生できる。リモコンにはヘッドフォンやステレオ・システムを接続する必要があるが,データ自体は無線で転送される。

 米国の業界団体であるImaging Science Foundation(ISF)は,ハイエンドのMedia Center PCについて,ISFが定める高品位なオーディオやビデオの再生品質にあることを認定しはじめている。米Hewlett-Packard(HP)のほか,Alienware,Stack9 Systems,RicavisionのMedia Center PCが,ISFが定める再生品質を満たしているという。また加ATI Technologiesや米NVIDIAのビデオ・カードが,ISFによって認定されたとしている。両社のビデオ・カードは,新しいMedia Center PCにバンドルされたり,個人ユーザーに販売されたりするだろう。

数多くの新デバイスを披露

 Microsoftのパートナである東芝は,コンシューマや学生向けのタブレットPCの新モデルを公表した。「Satellite R15-S822シリーズ」というタブレットPCは,今年の後半リリースされる予定だ。またMicrosoftは,タブレットPC用に「Power Toys」を提供する予定で,これにはデジタル・エンタテインメント用のソフトをタブレットPCにコピーするためのツールが含まれる。

 基調講演の最後には,今後登場する予定のPlaysForSure対応デバイスが数多く披露された。iRiverやSamsung,Gatewayが,CESに合わせて新しいメディア・プレーヤを発表する。またArchosも,同社初のPlaysForSure対応デバイスを初めて披露した。Digitrexとパイオニアは,PlaysForSure対応の液晶テレビやプラズマ・テレビを披露する。これらPlaysForSure対応TVであれば,ソフトウエアを追加しなくても,TVを使ってホーム・ネットワークにログオンし,パソコンに記録されているデジタル・オーディオやビデオ,写真などのコンテンツを大画面で利用できるようになるのだ。

(Paul Thurrott)

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