米Microsoftの古川享副社長は10月20日,開幕した「WPC EXPO 2004」で同社のデジタル・エンターテインメント戦略に関する基調講演を行った。古川副社長は「ミュージック」「ピクチャ」「ビデオ/テレビ」という3つの領域で,新しい製品やサービスを披露した。目玉は音楽配信に関する発表で,同日からMS独自の配信サービス「MSNミュージック」を日本で開始することや,これまで独自形式(ATRAC3)による音楽配信を実施していたソニー系列のレーベルゲートも,Windows Media Audio形式による配信を実施することを明らかにした。

パソコンで「いつでもどこでもエンターテインメント」を目指す

 古川副社長は冒頭,現在のパソコンがおかれている状況を語った。「最近よく,『パソコンの時代は終わった』といわれるようになった。デジタル家電や薄型テレビ,デジタル・カメラがつながれば,そこにパソコンは不要だといわれる」。

 しかし古川副社長はそれに反論し,パソコンが既にライフスタイルを形作る上で,欠かせない存在になっていると主張した。「パソコンは,生活のあらゆるシーンに入り込んでいる。例えば,私が最近通った歯科医院では,診察台のそばに液晶ディスプレイが置かれていて,暇な時間はそこでケーブル・テレビが見られるし,レントゲン写真を撮ったらその液晶ディスプレイが瞬時にWindowsの画面に変わって,そこでお医者さんが写真をすぐに見せてくれる。これ以外にも既に自動車にWindowsが搭載されているし,銀行のATMの90%がWindowsだ。コピー機やコンビニなどで使われているPOS端末もWindowsで動いている」(古川氏)。

 これらの状況を踏まえて,人は今後パソコンによって「デジタル・ライフスタイル」を体験するようになると語る。「かつて寒さを防ぐという『機能』のために存在していた衣類も,時代がたつにつれて自分自身を表現する手段となり,ライフスタイルとなり,文化を作っていった。それと同じように,パソコンも機能を提供する存在からライフスタイルや文化を作る存在になっている」(古川氏)。

 デジタル・ライフスタイルを実現するために,マイクロソフトが提案するのが,エンターテインメントをいつでもどこでも利用できる「デジタル・エンターテインメント・エニウェア」という概念と説明する。その上で,古川氏は「ミュージック」「ピクチャ」「ビデオ/テレビ」という3領域において,デジタル・エンターテインメント・エニウェアを実現するための製品やサービスを披露した。

Windows Media Player 10から音楽を直接購入できるように

 ミュージックについてはまず,20日からダウンロードを開始した新しいメディア・プレイヤー・ソフト「Windows Media Player(WMP)10」を披露した。WMP10の特徴は,WMP10の画面から各種音楽配信サービスのコンテンツを購入できることである。従来も音楽配信サービスなどとの連携機能があったが,別途Webブラウザを使う必要があった。

 WMP10では,マイクロソフトが20日からサービスを開始したMSNミュージックのほか,合計9事業者のコンテンツが購入できる。その中には,ソニー・ミュージックエンタテインメント子会社のレーベルゲートもある。レーベルゲートはこれまで,ソニーのデジタル著作権管理技術を使ったATRAC3でのみコンテンツを配信してきたが,今後はWMAでも配信することにした。

 レーベルゲートの高堂学社長は「CDと音楽配信事業の違いは,規格が一本化されていないこと。ユーザーのためには,われわれが相互乗り入れをしなくてはならないと考えた」とWMA採用の理由を語った。Microsoftの古川副社長は「大きな山が動き始めた。Microsoftだからといって力ずくでやるのではなく,頭を下げて他の事業者に頼んで,それを聞き入れて頂けたことを理解してほしい」とアピールした。

上下左右に写真を合成するパノラマ合成機能をアピール

 ピクチャに関しては,同社のフォトレタッチ・ソフト「Digital Image Pro 10」をアピールした。古川副社長は「実はこのソフトのバージョン9のころまでは,隠れAdobe PhotoShopユーザーだった。でもバージョン10からは,Digital Image Proを使い始めた」と,性能強化をアピール。基調講演では,横方向だけでなく縦方向にもパノラマ写真を合成する機能や,音楽付きスライドショー「Photo Story」を作る機能などのデモを交えてアピールした。

Media Center eXtenderの日本上陸はまだ

 ビデオとテレビに関しては,同日正式発売したWindows XP Media Center Edition 2005を披露した。Media Center Edition 2005は,2枚のテレビ・チューナーを使えるようにしたほか,離れた場所にあるテレビにパソコン上のコンテンツを表示できるセット・トップ・ボックスである「Media Center eXtender」との連携が特徴。しかし,日本ではMedia Center eXtenderを販売する事業者がないため,Media Center eXtenderのデモは実施されなかった。

 古川副社長は最後に,「(自分が現役として活躍するのは)60歳までと考えており,残りの時間はあと10年となった。今回発表した取り組みによって,『パソコンでメディアを作りたい』という,この業界に入った時に抱いた夢に,一歩近付いた」と語った。

(中田 敦=日経Windowsプロ

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