ここ数カ月の間ささやかれているWindows XPの後継製品「Longhorn(開発コード)」のリリース時期が遅れるかも知れないというニュースは,そもそも根拠のない話だった。もともと思慮の足りないアナリストの当てずっぽうだったものが,いつのまにか事実と受け止められそうな勢いで広まってしまった。いくつかの大手ニュース会社がMicrosoftが失速しているのかも知れないと追従したためだ。しかし,Longhornに盛り込もうとしている機能の複雑さを理由に,そもそもMicrosoftはこれまでは数年程度のスパンで公表してきた次期製品のリリース時期をLonghornについてはまったく発表していない。それなのに「遅れる」と騒ぐ人が後を絶たない。これがリリースまでの向こう2年間も続くとすると,その2年間は永遠にも感じられるだろう。

 「リリースが遅れる」という話題は,最近インタビューを受けたMicrosoftの重役のコメントから自然発生的に出てきた。しかし,遅れるという内容に具体的に言及したものは1つもないのだ。実際,Microsoft本社に変わった様子はない。重役たちは相変わらず,Longhornはいくつかの製品と多岐にわたる数々のテクノロジを包含したメジャー・バージョンアップの「波」であること,そしてこのように複雑な製品であるから,Longhornのリリース時期は「それが完成したとき」としかいえないことなどを繰り返しているに過ぎない。会長のBill Gates氏は最近も「まだ我々にもLonghornをリリースするまでの時期的な見通しは立っていない。しかし多数の革新的でエキサイティングな機能が盛り込まれるのは確かだ」と語っている。

 先週,ComputerWorld誌のインタビューを受けたグループ副社長のJim Allchin氏も,Longhornについてははっきりとしたリリース時期を言わなかった。「可能性の問題でしかないが,(2005年のリリースというのは)我々の目標だ。それは実現するかも知れないし,実現しないかも知れない。確かなのは,目標は目標として持っており,ベータ1ができる頃にはもう少し確実なことがわかるということだ。(10月末開催の)『Professional Developers Conference(PDC)』でベータ1をリリースする予定はないが,その後ベータ1が出れば,それに対するカスタマのフィードバックを得られる。フィードバックを得てからでないと製品のリリース時期はまったく予測できない」。

 一方,実体のあるニュースの不足と,業界が2年間も空転を続けていることから,産業ニュースの供給側としては,熱心な読者に対してより多くのLonghorn情報を届けようと躍起になっている。そこに,ある技術産業アナリストが最近,Longhornの出荷開始が2006年にずれ込むという予測を出した。うわさ好きのこの業界で,この予測は広く報じられ,いつの間にかMicrosoftが失速している証拠の1つと見られるまでになってしまった。しかし,この予測は当たり前すぎる内容だ。開発陣が2005年という目標を掲げていることと,これまでMicrosoftの主要製品の開発が目標時期からどの程度遅れたかを考えれば,だれにでも予想が付く。つまりこんな予測はまったく議論に値しないのだが,大ニュースとして広まってしまう。実に困った事態だ。

 Longhornのリリース時期に関してはAllchin氏の言うことがもっとも確実だろう。「Windows 2000(のリリース時期)については,報道に問題があった。リリースの期日ばかり気にして質を問題にしなかった。報道関係者向けのミーティングで聞かれるのは『予定日はいつなのか?現在の遅れはどのくらいか?』という質問ばかりだ。私の答えもいつも同じだ。『考えていない。重要なのはクオリティだ』とね。今回は我々がいままで経験した中でもとびきり大規模なリリースだ。だから尋ねるべきなのはクオリティだ。日付のことは忘れて欲しい。それは今すぐに決めてしまっていい問題ではない。我々は開発者がどう感じているかを知りたいし,ベータ1がどのような評価を受けるかも知りたい。いつになるのか――2005年の前半なのか後半なのか,あるいは2006年にずれ込んでしまうと問題なのか。それは私にも分からない。カスタマの方に向き合ってやっていくことになる」。

(Paul Thurrott)