米ニューオーリンズで開催中の「WinHEC(Windows Hardware Engineering Conference)2003」の2日目(展示会は3日目),基調講演でコーポレート・バイス・プレジデントのDavid Thompson氏が次世代サーバーOSテクノロジ「Blackcomb(開発コード)」について語った。Blackcombは,これまで予想されていたような,サーバーOSのメジャー・アップグレード製品としては登場しない。代わりに,間もなく出荷を始めるWindows Server 2003に対して,数年越しで強化策を施していくプロジェクトと位置付けられることになった。

 つまり,Blackcombは「Cairo(開発コード)」と似た運命をたどることになる。Cairoは,Windows NT 4.0の後継版として1990年代中盤に開発がスタートしたものの,結果は全然異なる形になった。Cairoは単体製品としてはリリースされず,そのテクノロジはMicrosoftの様々な開発チームに四散した。あるものはWindows 95のデスクトップ・シェルとして,そしてあるものはWindows 2000 ServerのActive Directoryとして結実している。2005年に出荷開始予定の次期クライアントOS「Longhorn(開発コード)」に組み込まれるストレージ・システム「WinFS(Windows Future Storage)」も,元々Cairoの一部だった。

 「Blackcombとして独立した製品がここ3~4年のうちに登場することはない。その代わり,Windows Server 2003に対する追加機能を一定のペースでリリースしていく」(Thompson氏)。Thompson氏によると,2003年に限ってはBlackcombプロジェクトの一部であるWindows Server 2003への機能追加を多数施すという。6月にiSCSIイニシエータを,第3四半期に「NAS 3.0」を,第4四半期にVirtual Serverのリリースをそれぞれ予定している。このほか,米Advanced Micro Devices(AMD)の64ビットCPUに対応したWindows Server 2003を「2003年末までにリリース予定のService Pack 1 for Windows Server 2003に含めて」(Thompson氏)リリースするという。

 「これらの追加機能はWindows Serverの一部と位置付ける。実際にはサービス・パックに含める形で提供されることになるだろう。革新的な機能を次の製品のリリースまで抱え込んでおくのは得策ではない」(Thompson氏)。Microsoftは,製品リリースに合わせて機能を詰め込むという従来のソフト開発手法を見直し,ソリューションの提供を重視するようになっている。製品ロードマップもそれに合わせて変更してきており,今回のBlackcombのロードマップはまさにこの戦略転換を反映したものといえる。

 Blackcombのリリース形態の変更は,サーバーOSにWinFSファイル・システムをどういった形で提供するかという,最近の焦点となっていた疑問への回答となっている点でも重要だ。製品化を事実上断念したことで,WinFSは次期サーバーOSを待つことなく,単純にLonghornのリリース時期に合わせてWindows Server 2003の追加機能の1つとしてリリースされることになるだろう。

 ただし,MicrosoftはBlackcombの後には動的パーティショニングをはじめとする数々の先進機能を取り入れたメジャー・アップグレードの計画を持っている。まだ開発コード名はなく,開発スケジュールやリリース時期についても明かされなかった。

[追加情報]

 記事の公開後,Dave Thompson氏はBlackcombのサーバー製品が出ないとは明言していないという指摘をMicrosoftから受けた。筆者は確かにそう聞き,基調講演の筆記録にも残っているのだが。Microsoftの説明では,BlackcombベースのWindowsサーバーはWindows Server 2003をフォローする形で出てくるテクノロジ群を含むもので,「Blackcomb」という名称もWindowsサーバーの次期版の開発コードとしてまだ存在しているという。「Blackcombサーバーをリリースするという当初の計画は変わっていない」(Microsoftの担当者)とのことである。

 しかし,基調講演の筆記録があるのでそれを示しておこう。「...これがWindowsサーバーのロードマップです。Windows NT 4.0,Windows 2000と続く進化の過程を示したものです。製品としてはWeb Server Editionというバージョンが加わりました。Webアプリケーションの実行に機能を絞り,低コストで提供する製品です。それから,Blackcombと呼んでいるものは将来のテクノロジに関するリストとして示されています。例えば3年後,あるいは4年後にリリースされるようなものではありません。そのわけは次のスライドでご覧に入れましょう。さあ,いかがですか。OSへの追加機能をどんどん出していくということなんです。この機能追加の動きは今年から始まります。つまり,Blackcombとは追加機能のセットで,Windowsの大きなバージョン・アップ版のリリースではないのです。このような形態でのリリースを私たちは『メインストリーム外でのリリース(out-of-band releases)』と呼んでいます。実質的にWindowsの一部となるサービスで,通常のサービス・パックを通じてWebサイトからダウンロードして組み込める形になります...」。