米Microsoftは,Windows .NET Server 2003の出荷と同時に開始する新ライセンス制度の概要を明らかにした。クライアント・アクセス・ライセンス(CAL)が多様化され,一部のユーザーではコスト削減につながる可能性がある。一方で,他のユーザーには実質的に値上げとなる改定も含まれている。影響の度合いは,企業内のクライアント・パソコンの導入状況やターミナル・サービスの利用状況などによって大きく左右される。

ユーザー単位のCALを新設
1人で複数クライアントを使う場合は負担減

 WindowsサーバーOSを利用するには,基本的に2種類のライセンスが必要となる。サーバーの台数に応じて必要になるサーバー・ライセンスとそのサーバーにアクセスするクライアント数に応じたCALである。さらにCALには,「接続クライアント数モード(Per Seat)」と「同時使用ユーザー数モード(Per Server)」がある。新制度は,このうち「接続クライアント数モード」のCALを多様化するのが柱。

 新制度では,「Per Seat(接続クライアント数モード)」の名称が「Per Device or Per User」に変更される。Per SeatのCALが実質的に「Device CAL」と「User CAL」の2種類に増えることになる。

 「Device CAL」は現行のCALと同様にクライアント・コンピュータに対して与えられる。「Per Seat」モードでサーバーを利用する場合,現行ではユーザー企業はサーバーに接続するクライアント・コンピュータの台数分だけCALが必要にある。複数のユーザーが1台のクライアントを共用している場合でもCALは1つで済む。「Device CAL」も同様である。

 「User CAL」はユーザーに対して与えられる。これは1人のユーザーが複数のクライアント・コンピュータでサーバーにアクセスする場合に有利になる。例えば,会社の机の上に個人専用のデスクトップ・パソコンがあり,別途外出用にノート・パソコンを使っている場合,現行制度では2台分のCALを購入するしかない。これに対し,User CALは1人のユーザーが何台のコンピュータを使っても,1つのUser CALを購入するだけでいい。「1人1台以上」のパソコンが配備されている企業なら,CALのコストを削減できる可能性がある。

 User CALとDevice CALの価格が現行のCALと同水準だと仮定するなら,新ライセンス方式は企業にコスト・メリットをもたらすだろう。ただし,この改定がCALを値上げするための説得材料の1つだとしたら,新たな批判を呼びかねない。

認証が必要なWebシステムやターミナル・サービスでは負担増

 また,インターネット接続時のライセンスとターミナル・サービスのライセンスが改定される。

 現行のライセンス制度では,Windowsサーバー上でWebサーバーを動作させ,インターネット経由で不特定ユーザー(認証が不要な匿名ユーザー)にWebコンテンツを公開する場合,CALは必要ない。一方,ユーザー認証(ログオン)を伴うWebシステムにアクセスする場合は,クライアント・コンピュータに対するCALが必要だ。認証ユーザーの数が多いときのために,1台のWindowsサーバーに無制限のクライアント・アクセスを許可するインターネット・コネクタ・ライセンスも用意されている。

 新ライセンス方式でも,インターネット経由でアクセスしてくる匿名ユーザーにCALが不要な点は変わらない。しかし,認証を伴うインターネット・アクセス用のインターネット・コネクタ・ライセンスは後継の「External Connector」ライセンスに置き換えられる。現行制度では認証(ログオン)処理を実行するサーバーごとにライセンスを購入すればよいのだが,新制度ではユーザーがアクセス可能なすべてのサーバーにライセンスが必要としている。

 ターミナル・サービスに関しては,専用のCALであるターミナル・サービスCALが必要になるOSが変わる。Windows 2000 Serverのターミナル・サービスでは,クライアントOSがWindows 2000 ProfessionalとWindows XP Professionalの場合,ターミナル・サービスCALがなくてもアクセスを許されている。ところが,Windows .NET Server 2003では,クライアントOSがWindows 2000/XPでもターミナル・サービスCALが必要になる。

 ターミナル・サービスを利用中の企業にとって,この改定は大きな打撃になる。サーバーOSをWindows .NET Server 2003にアップグレードする場合,多数のターミナル・サービスCALを改めて購入しなければならなくなるからだ。

 このため,Microsoftは移行措置として,Windows .NET Server 2003の公式な出荷日の時点で導入されているWindows XP Professionalには.NET Serverのターミナル・サービスCALを与えることにした。ただし,この場合はターミナル・サービスCALをアップグレードする権利は与えられない。Windows XP Professionalが導入されていない場合でも,最新OSへのアップグレード権をもつソフトウエア・アシュアランス(SA)やアップグレード・アドバンテージ(UA),Enterprise Agreementといったボリューム・ライセンス・プログラムを利用していればターミナル・サービスCALが与えられる。

(渡辺 享靖=日経Windowsプロ)