マイクロソフトは11月27日,オープンソース・ソフトウエアに対する同社の方針と見解を発表した。これは朝日新聞が11月16日の夕刊や同社のサイトで「電子政府の基本ソフト、脱ウィンドウズへ 公開型に転換」(該当サイト)と報じたことに対して,反論する内容となっている。このリリース文は,朝日新聞の記事に逐一対応しており個条書きで5つにまとめている。

●『政府は,「電子政府」の安全性を高めるため,OSの見直しに乗り出す。現在,大半を占めるウィンドウズから切り替えが進む可能性が高い』(『』内は弊誌による朝日新聞記事の要約。以下同じ)。マイクロソフトも「e-Japan計画」に対して全社的に賛同して,政府・各省庁・各自治体の定める方針に従ってオープンソース・ソフトに関する議論にも積極的に参加していると主張。

●『マイクロソフトのウィンドウズは、オープンソースOSではない』に対しては,ソース・コード公開の有用性を認めて,同社の「シェアードソースイニシアティブ」に沿った契約を結ぶことで,既にソース・コードを公開していると反論。

●『自民党が安全対策のためにオープンソースOSの導入を進めるよう政府に要望』に関しては,オープンソース・ソフトが商用ソフトに比べてセキュリティ面で必ずしも優れているわけではないという調査結果があるとしている(弊誌既報)。またWindows 2000がISO 15408(セキュリティ評価共通基準認定)を取得したことも,その根拠としている(弊誌既報)。

●『利用者はライセンス料を支払う必要がない。プログラムの変更も可能で,トラブルに対応するためのシステム管理がしやすい』に対して,導入コストの低さは認めながらもメンテナンスや社内人件費などのTCO(Total Cost of Ownership)が多くかかる場合があると直接的ではないが,反論している。

●三菱総合研究所主任研究員のコメント『政府のオープンソースOS導入が,国内産業の育成にもつながる』に対しては,オープンソース・ソフトの多くが採用するライセンス規定「GPL(General Public License)」は,ソフトの無償配布や改変を認めており,これが逆に国内のソフトウエア産業の育成を制限することにもなりかねないと主張している。

 朝日新聞の記事が出た当初,システム・インテグレータの間では,「なにも知らない政府の人たちが,一部の熱狂的な専門家にダマされているのではないか?ソースコードを公開したからといって,セキュリティが上がるというものではない」と,記事の内容に首をひねっていた。すでにいくつかの案件でWindowsシステムの導入を進めているものもある。

 朝日新聞だけでなく,北海道新聞にも同様の記事が出たことで,マイクロソフトは「社会的に影響が大きい」ことを重視し反論に動いたと思われる。今回の反論の内容について,同社広報部は「朝日新聞の記事があったから,オープンソースに方向転換したということではない。かといって,オープンソースを否定するものでもない。『オープンソースでなければならぬ』という議論の出発点がおかしいのではないかというものだ」と説明。また,後追いで「マイクロソフトが方針転換」と報じた一部報道についても,「今回の意見書は,1年半前にマイクロソフトが発表していた“シェアードソースイニシアティブ”などをまとめ直しただけで,決して新しい発表というわけではない。ただ、今まであまり知られていなかった“シェアードソースイニシアティブ”を、今後積極的に啓蒙していくという点は方針転換と言えるかもしれない」と語った。

(茂木 龍太=日経Windowsプロ)