「Trustworthy Computing」という言葉を聞いたことがあるだろう。このスローガンを掲げて,Microsoftにいるすべての開発者などが,セキュリティにかかわる仕事のすべてを見直している。ただし,これは氷山の一角でしかない。米Microsoftは,セキュリティやプライバシ,現在の企業につきまとう知的財産の窃盗といった問題に真剣に取り組むために,PCのアーキテクチャを徹底的に見直す計画を秘密裏に用意している。

 Microsoftは,“Palladium”(パラジウム)というコードネームが付いているこの計画の詳細を米Newsweek誌に話した。Palladiumはギリシャ神話に登場する,古代トロイという都市を外部からの攻撃から守ったといわれる像のことである。

 Palladiumを実現するには,たくさんのハードウエアやソフトウエアが対応する必要がある。可能であれば2004年に出荷を予定している次期WindowsのLonghornの一部として組み込まれることになるだろう。「Palladiumは問題解決だけではなく,人々がコンピュータを使って生活したり仕事をする方法の可能性を広げるものである」とMario Juarez製品マネージャはいう。

 MicrosoftはPalladiumを下記の理想を掲げて設計している。

(1)Palladiumにより,ユーザーが間違いなくユーザーのPCを使っていることを認識する。また,インターネットから入ってくる情報は,ユーザーがアクセスする前に確認される。

(2)Palladiumは,データの盗聴や盗難を妨害するために,封を(署名)されたデータを暗号化して情報を防御する。ユーザーが気付かないうちにドキュメントが改ざんされないように,システムはドキュメントの完全性を維持する。

(3)Palladiumはウイルスやワームの侵入を防ぐことができる。システムは承認されていないプログラムを実行しないことで,ウイルスがシステムを破壊するのを予防する。

(4)Palladiumはスパム・メールを遮断する。スパム・メールがメール・ボックスに入る前に防御する。もしユーザーが設定した基準に合致する証明書があれば,頼みもしないのに送られてくるメールでも受信できる。

(5)Palladiumはプライバシを保護する。PCでデータを封印する機能に加え,データが適切なユーザーだけに届くことを保証するエージェントと呼ぶソフトを使うことで,インターネットを経由して送るデータを封印できる。Newsweek誌はエージェント・ソフトに「My Man」というニックネームを付けている。

(6)PalladiumはPCから情報が送られた後も情報をコントロールできる。「Digital Rights Management」(DRM)という技術を使うことで,音楽や映像,それ以外にも知的財産をインターネット経由でセキュアに配信できるようになる。例えば,映画会社や音楽産業がこの技術を使うことで,顧客が音楽CDや映画を著作権を侵害しない範囲で複製ができるようになる。また,個人の電子メールが勝手に他の人にコピーされたり転送されないことを保証できるようになる。また,Newsweekのレポートによると,「Word文書を作成しても,来週にならないと読めない設定にできる。どのような場合でも,これらのポリシーを設定するのはユーザーであり,Microsoftではない」という。

 Palladiumの背後にあるほとんどのコンセプトは新しいものではない。このシステムをユニークに,そしてあえて言うのなら,革新的なものにしているのは,技術の周りに業界を集結させ,実現まで押し通すMicrosoftの能力である。

 チップ・ベンダーの米Intelと米AMDは,Palladiumに対応することを決定している。また,名前は公表できないが,セキュリティが最大の関心事になっている金融サービスやヘルス・ケア,政府といった分野で,Microsoftのメジャーなパートナが,既にPalladiumに対応することで合意している。

 しかしながら,Palladiumの成功は少しも約束されたものではない。Microsoftの長引いた反トラスト法の裁判と増大するセキュリティ関連の懸念のおかげで,アンチMicrosoftの人々は声が大きくなっている。そして,Palladiumは,Windowsだけの技術であるので,間違いなくMicrosoftのOS支配をさらに拡大させてしまうだろう。

 Microsoftは,Palladiumが他のプラットフォームに簡単にポーティングできることを説明することで,この非難に対抗する。「Palmや電話,腕時計にPalladiumを載せることを無視できない。LinuxやMacintoshへのポーティングも考えている」とPalladiumのソフトウエア・アーキテクトであるWillman Presumably氏はいう。