米Microsoftは米国時間の10月23日,ロサンゼルスで開催中の技術者向け会議Professional Developers Conference(PDC)で,同社の.NET戦略を支える「.NET My Services」の詳細を明らかにした。.NET My Servicesは,Microsoft自身が手がける汎用のWebサービス。電子メール・サービスの「.NET Inbox」や複数ユーザーで共有可能なカレンダ機能の「.NET Calender」,ユーザーの基本属性情報(住所や誕生日など)を他のサービスに提供する「.NET Profile」,決済情報を管理する「.NET Wallet」など,10種以上のWebサービスで構成され,インターネット上のWebサービス・サイトから提供される。

 ユーザーはこれらのサービスを,PCだけでなく,携帯端末やスマート・フォンなどの多様なデバイスを通して利用できる点が大きな特徴である。ユーザー認証サービスの「Passport」を基盤にしているため,これに対応した複数のサイトになら,シングル・サインオンを実現することも可能だ。.NET My Servicesは,2002年第2四半期に試験運用が始まる予定。

 PDCでは,.NET My ServicesによるMicrosoftのビジネス・モデル(収益の仕組み)が初めて公開された。これまでは,ユーザーが利用量に応じて料金を支払うサブスクリプション・モデルが中心になると見られていた。だが,Microsoftはこの課金方式を一部サービスに適用する含みを残しつつも,.NET My Servicesを利用して新しいサービスを提供しようとする企業に課金の対象を向けた。

 .NET My Servicesを利用する企業とMicrosoftの間で結ぶサービス・レベル・アグリメント(SLA)のレベルにしたがって,3段階の料金体系になっている。例えば.NET My Servicesを使って小規模なサービスを提供する企業は,年間1000ドルの基本額に加えて,アプリケーションごとに250ドルのエントリ料金をMicrosoftに支払う。広範囲にサービスを提供する企業は,年間1万ドルとアプリケーションごとに1500ドルのスタンダード料金を支払う。大規模にサービスを展開する企業には,サービス・レベルに合わせて決めるコマーシャル料金を適用するという。

 コマーシャル料金が適用されるような例として,Microsoftは大手コーヒー専門店チェーンSTARBUCKSのデモ・システムを紹介した。STARBUCKSの利用者がインターネットで好みのコーヒーを予約しておき,来店したら待たずに商品を購入できるようにするものだ。

 このWebシステムの注文ページを開くと,.NET My Servicesを利用するためのボタンが配置されている。このボタンを押すと,ユーザーが利用可能な.NET My Servicesの一覧が表示される。ユーザーが.NET Profileや.NET Walletに情報を登録していて,かつSTARBUCKSのWebシステムがその情報を利用してもよいと承認すれば,WebシステムがこれらのWebサービスを呼び出して注文ページの入力項目(名前や決済情報など)を自動的に埋めてくれる。登録情報から,最寄りのSTARBUCKS店舗を複数提示する機能も紹介した。各種の.NET My Servicesを組み合わせれば,まだまだ応用の余地があるという。

 .NET My Servicesの詳細発表に合わせて,Microsoftは.NET My Services SDK,Passport SDKなどの開発環境の提供を開始。PDCの参加者には.NET My Servicesの仕様書を配布し,.NET My Servicesを利用したWebシステムの開発を促した。

 さらにPC以外のデバイスに対するアプリケーションの開発環境も発表した。リソースの少ないデバイス向けのライブラリ/実行環境となる「.NET Compact Framework」や統合開発ツールVisual Studio .NETの拡張ソフトである「Smart Device Extensions for Visual Studio .NET」である。

(渡辺 享靖=日経Windowsプロ)