「法的な問題が起こったあとの弁護を行うのではなく,プロジェクトの初期に法的なアドバイスを行うことで訴訟を防ぐ」。米Software Freedom Law Center(SFLC)のEben Moglen所長(写真)は,2005年2月に設立されたSFLCの目的をこう語る。SFLCは,オープンソース・ソフトウエアの開発者に無料で法的なサービスを提供する機関で,米OSDL(Open Source Development Labs)やオープンソース系ベンダーの支援を受け,米国ニューヨークに設立された。Moglen氏はコロンビア大学教授であり,ソフトウエア著作権法に詳しい。また,1993年から米Free Software Foundation(FSF)の顧問弁護士も務めている。

 オープンソース・ソフトの開発で法的な問題がクローズアップされるようになったのは,米SCO Groupが2003年3月に米IBMを提訴したのがきっかけ。SCOは「SCOが所有するオリジナルUNIXのコードをIBMがLinuxに不正流用したため,SCOの著作権をLinuxが侵害している」と主張している。SFLCはこうした問題を未然に防ぐことを目的とする。

 SFLCが提供する法的アドバイスは,「大規模なプロジェクトから数人の学生の集まりまで」(Moglen所長),幅広いオープンソース開発者を対象にしているという。また同氏はSFLCのもう一つの役割として,「弁護士のトレーニング」を挙げた。「フリー/オープンソース・ソフトの分野で求められる法的な知識を持つ専門家を育てたい」という。

 SFLCの直近の重要なタスクとしては,FSFと共同で進めるGPL(GNU General Public License)v.3.0の策定がある。GPLは,Linuxなどが採用しているオープンソースのメジャーなライセンス。現行バージョンのv.2がリリースされたのは1991年で,14年もの間,改定されていない。「当時とは社会的にも技術的にも状況が大きく変わり,見直すべき時期に来た」とMoglen所長は語る。ただ,「今までのGPLの成功をベースにし,混乱をまねくような変更はしない」(Moglen所長)。使用される地域の拡大を背景として「国際性を反映しているか」,携帯電話からスーパーコンピュータまで広い分野で使われるようになったことを背景として「すべての分野をカバーしているか」といった点を確認することになるという。数カ月後をメドに,透明性を確保した策定プロセスをFSFと共同で発表。2006年いっぱいかけて広くディスカッションを行い,2007年始めにGPL v.3.0をリリースする計画である。

 日本での活動予定について,Moglen所長は「まだ米国でSFLCを立ち上げたばかりで何とも言えないが,チャンスはオープンに考えている」と語った。「まずはニューヨークのセンターとGPL v.3.0に集中したい。海外への展開はその後に検討することになる」。

(日経ソフトウエア)