「3,2,1,スタート!」――司会者の掛け声が場内に響き渡ると,各コートの中で学生が一斉にノート・パソコンのキーボードを叩き始める。そして与えられた文章の符号化を終えると,赤,青,黄,緑の4種類のボールをパイプに入れ始めた――プロコン競技部門の開始である。

高専学生によるプログラミングの祭典
 10月12,13日の2日間,石川県金沢市の石川県地場産業振興センターにおいて「全国高等専門学校 第13回プログラミングコンテスト」が行われた。プログラミング・コンテスト(プロコン)とは,高等専門学校いわゆる高専の学生を対象に,自作ソフトウエアのアイデアと実現力を競う大会(詳細はこちら。競技結果も照会可能)。ロボット・コンテスト(ロボコン)のソフトウエア版と考えればわかりやすい。課題,自由,競技の三つの部門があり,57の高専から課題33,自由46,競技56チームの応募があった。このうち6月の予選を勝ち抜いた課題20,自由20,競技56のチーム,約600名の学生と教師が,金沢の本選に参加した。

 競技部門のテーマは「以心伝心DNA」。通信処理の様子をパイプとボールを使って表現したものだ。一つのチームが送信側,受信側のブースに分かれ,それぞれのブースをつなぐ透明のパイプにボールを流し,送信側から受信側に,情報(小説や新聞記事などの文章)を伝える。競技時間7分の間に,正しく伝達できた文字数を競う。ただし,パイプの中を通せるボールは赤,青,緑,黄色の4色のみ。情報を何らかの形式で符号化し,それを受信側で復号化する必要がある。しかも,競技時間中に最大7回,4個のボールが途中で抜き取られる。つまりデータの欠損だ。適切な符号化/復号化のアルゴリズムの選定,その実装,受信した結果に含まれる間違いの発見と訂正を,いかに工夫するかでチームの優劣が競われる。

 多くのチームは,手作業でボールをパイプに流したが,木更津高専の「TeamPAON」チームのように自動的にボールを送信する装置を作るところも。ただ,残念なことに同チームの装置は,本選ではうまく動作しないというアクシデントに見舞われてしまった。また,熊本電波高専の「C-5」は女性だけのチーム。伝送誤りは前方誤り訂正(FEC)アルゴリズムを用いるなどすばらしいチームワークで,競技部門第3位を勝ち取った。

 優勝(文部科学大臣賞)は,東京高専の「電書鳩」チーム。4種類のボールのうち1種類をパケット区切りに使い,送られてきたボールをそのまま送信側に戻すことで,誤りがないかどうかをチェックする方式を採用。あらかじめ約250万語の辞書を作成するなど事前準備も万端で見事優勝した。

3Dグラフィックスが目を引いた課題/自由部門
 一方,競技会場の横は,指定のテーマに沿ったソフトウエア開発を競う課題部門と,自由な発想のソフトウエアを発表する自由部門のデモンストレーション会場。12日の初日では,各発表ソフトウエアのプレゼンテーション審査が行われ,13日はデモンストレーション審査が行われた。

 課題部門のテーマは「スポーツとコンピュータ」。鹿児島高専の体育祭向けWebアプリケーション「e-体育祭」など学生にとって身近なイベントを題材にしたシステムのほか,鳥人間コンテストにヒントを得た詫間電波高専の「飛ぶ人間コンテスト ―君の見た空―」,木更津高専の弓道をシミュレーションした「目指せ那須与一 ―源平合戦 船上の扇―」など,大掛かりな装置や,ゲームのような3Dグラフィックスを用いたところが目を引いた。

 デモンストレーション会場では,審査員が各チームの展示説明を聞き,説明者が制限時間内に説明を行った。しかし実際に動かそうとすると,ソフトウエアがうまく動作しなかったり,審査員から厳しい質問があるなど,緊張しながらの説明となったところも。会場内では,学生が互いのデモンストレーションを見せ合い,会場のあちこちで学生自身による交流が活発に行われた。

 課題部門の最優秀賞は,バレーボール試合の支援とデータ分析を行う鳥羽商船の「ボールはネットを越え,データはネットを越える!」。自由部門では,ネットワークを使って集団でタイピングの練習を行う津山高専の「次世代タイピング練習システム KBT」が最優秀賞に選ばれた。派手さはないが,いずれも作り手の思いが一方的にならず,ユーザーのニーズや使い勝手などがよく考えられていたものであったことが印象深い。

 ホスト校であった石川高専の先生方や学生の活躍も目を引いた。裏方スタッフとして,会場設営から運営までこなし,二日間のイベントを滞りなく実行した。高専のイベントと言うとロボコンばかりが注目されるが,それだけではない。来年の第14回プロコンは,東京都八王子市の東京高専で行われる。興味を持った方は,ぜひ来年のプロコンに見学に行ってほしい。

(日経ソフトウエア)