レッドハットは,2002年1月をめどに,組み込みLinuxの開発ツール「Red Hat Embedded Linux Developer Suite」(ELDS)の日本語版の販売を開始する。価格は未定。引き続き,2002年第2四半期には,リアルタイム性を高め,Java開発ツールを含めた新版を投入する予定である。

 2001年11月に販売を開始した同英語版のマニュアルなどを日本語化した製品。組み込み側のCPU(ARM,MIPS,PowerPC,SuperH,x86互換)別に5種類のパッケージがあり,英語版の価格はいずれも2500ドル。米IntelのAssabet SA1110や,XScale IQ80301など10数種類の主要ボードに対応している。ホスト側はRed Hat Linux 7.1以降が利用できる。

 ELDSは,ブート・マネージャであるRedBoot,ターゲット側で動作するLinuxカーネル2.4.7とglibc 2.2,デバイス・ドライバ,ミドルウエア,POSIX準拠のEL/IX API,gcc3.1.1などが利用できる開発ツールGNUPro,コンフィギュレーション・ツールから構成されている。このうち,コンフィギュレーション・ツールの機能が「売り」である。

 組み込み機器には,OSを書き込むフラッシュ・メモリーなどの容量に制限が多い。ELDSに含まれるコンフィギュレーション・ツールを用いると,機器に組み込むLinuxのモジュールを細かい単位で設定できる。例えば,シェルとしてcshを選択するかbashを用いるか,ネットワーク接続は固定IPかDHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)か,といった設定をGUIで決めることにより,数10バイト~数Kバイト単位で容量を決定できる。まず,最大限のソース・ファイル構成でバイナリ・ファイルを作成後,このツールで構成を変更していく。このとき,RPM(Red Hat Package Manager)を用いているので,ファイル間の依存関係を意識せずにすみ,配布が容易になるという。

 ELDSを使うメリットは,大きく三つあるという。まず,「これまでの組み込み開発では,ボードとOSの組み合わせが多数あり,経験の少ないユーザーは外部に開発を任せる場合が多かった。ELDSを用いれば,ユーザー側でOSを導入してアプリケーションを開発することまで可能になる」(同社エンジニアリング・サービスの山中勝氏)。第2に,ホスト側のRed Hat Linuxと組み込みLinuxは同じソースからOSをビルドしているので「ホスト側で作成したアプリケーションが,ほとんど手直し無しで組み込み側で動作する」(同)。第3に,「オープン・ソースのデバイス・ドライバを用いているため,商用OSの場合に比べてドライバを比較的容易に入手できる」(同)ことである。

 レッドハットは,組み込みOSの分野で,約30%のシェアを獲得しているという。これまでに,ソニー・コンピュータエンタテインメントのPlayStation 2の描画用LSIであるEmotion Engineや,スウェーデンEricssonのインターネット端末で,同社の組み込みLinuxが利用された実績がある。

 同社は工業プラントなどの用途向けに「RT-Linux」と呼ぶ製品も提供している。RT-Linuxは,最大レイテンシが決まっているハード・リアルタイムを実現する。小規模なリアルタイム・カーネル上で,Linuxカーネルとアプリケーションを一つのスレッドとして動作させ,リアルタイム性が必要なサービスを別のスレッドとして動かす仕組みである。一方,今回のような組み込みLinuxはソフト・リアルタイムと呼ばれ,最小レイテンシが100マイクロ秒程度でも,レスポンスは最悪数秒になる場合がある。

(日経ソフトウエア)