米InpriseのDale L. Fuller社長兼CEO(最高経営責任者,写真1=約27KBの右)は12月8日,東京都内でインタビューに応じた。Kylixの出荷遅れ,製品形態,機能などについて興味深いコメントがあった。要旨は以下の通りである。

Kylixの出荷が2000年から2001年第1四半期に延期された理由を知りたい。
 2000年内に出荷しようと思えばできた。そうしなかったのはKylixを手にした開発者をがっかりさせたくなかったからだ。出荷がずれたのは私にとっても痛手だったが,そうせざるを得なかった。Kylixはまったく新しいテクノロジで,ビジネス・ルールと技術面の両方で難しい点があった。どこをオープンソースにしてどこを商業的にするか,Linuxコミュニティに抵抗なく受け入れてもらうためにはどうすればいいのか,そういう議論が必要だったのだ。技術面ではセキュリティが焦点だった。Linuxはオープンソースであるだけに,ハッキング(hack through)がやりやすい。ビジネス・ユーザーに安心してもらうためには独自にセキュリティ関連の機構を追加する必要があった。ただ,その部分の詳しい内容は話せない。

Kylix Field Test #3(FT3)を使って疑問に思った点が二つある。一つはWindows版Delphiでは一つのEXEファイルに必要なライブラリを静的リンクして,一つのEXEファイルだけを配布すれば済んだのに,Kylixではどうやら別途ライブラリが必要になりそうな点だ。
 Windowsを出しているのはMicrosoftだけで,Windowsには必要なライブラリがきっちり入っている。でも,Linuxは複数のディストリビューション・ベンダーがあり,入っているライブラリが同じとは限らない。たくさんの味(multiple flavors)があるのがLinuxのよいところでもある。そのために,KylixではWindows版Delphiのように,一つの実行ファイルだけを配布すればよいというわけにはいかなくなった。確かに,若干の不便(little more inconvenience)を強いることになるかもしれない。その問題は認識しているので,インターネットから必要なライブラリをダウンロードできるような仕組みを作ったり,セットアップ・プログラムの作成を支援するツールを付けたりして,最適な方法を探したい。

もう一つは,BDE(Borland Database Engine)に相当するデータベース・エンジンが付属しないことだ。Linux用のデータベース管理システム(DBMS)は使うのが難しすぎる。Kylix上でもBDEを用意したほうがよいのではないか。
 はっきりさせておきたいのは,我々はデータベースの会社ではないということだ。ハードウエア・メーカーでもWebブラウザ・メーカーでもOSメーカーでもないのと同じことだ。顧客の多くはWebベースのシステムでOracle,レガシーなシステムではDB2を使っている。そういう顧客をサポートするのはとても重要だ。もちろん,オープンソース化したInterBase(関連記事はこちら)はグレートな製品だし,コマーシャル・ベースで使っている顧客には契約を結んできっちりサポートしている。だが,収益性の高い製品だとは言えない。ただ,DBアドミニストレーションを簡単にしようという気はあるので,期待していてほしい。

Kylixの実際の製品形態はどうなるのか。
 今後変更するかもしれないが,今のところ「Open」「Server」「Enterprise」という三つのエディションを考えている。Openエディションはすごく安い価格または無償で提供する。ただ,Openで作ったソフトはGPL(GNU Public License)にしたがって,オープンソースにしてもらうことになる。商売のソフトを作るには,それより上のエディションを使ってもらうことになるだろう。

Serverエディションというのは?
 今のようなインターネット時代では,サーバー側のアプリケーションを作りたいというニーズが強くなっている。クライアント側にはアプリケーションを置いてもいいし,Webブラウザだけでもいい。さっきのDBMSの話にしても,サーバーだけにDBMSを用意してもいいだろう。セットトップ・ボックスとか携帯電話からこのサーバーにアクセスしてもらうこともできる。Kylixにはそういうサーバー・アプリケーションを簡単に作れるような機能を盛り込むし,それは2001年第2四半期に投入するWindows用のDelphi 6にも搭載する。

それはKylixのFT3にはなかった機能か。その機能に何か名前は付けたのか。
 FT3にはまだなかった。機能に別に名前は付けてない。新しいものを作って新しい名前を付けて新しさをアピールするのは簡単なんだ。新しい機能をこれまでにあったものに結びつけることのほうが難しい。

サーバー側のアプリケーションはJavaで書くのが流行しているが。
 Javaもいいけど,遅いからね。CPUネイティブのプログラムで,より効率のいいサーバー・アプリケーションを書きたいと思っている人もたくさんいるよ。Javaの仮想マシン(VM)は本当はもっと速いものが作れるんだ。1年くらい前に当社とBlackdownプロジェクトがLinux用のJava VMを作ったんだけど,米Sun MicrosystemsのVMの2倍の速度で動いたよ。

だったらそれを出荷してほしかった。
 Sunがそれを認めなかった。Javaがオープンだなんてとんでもないよね。もっとも,我々の戦略はデベロッパに選択の自由を提供することにあるのだから,独自のJava VMに執着するというのはその戦略に合致しないとも言える。結果として,JBuilderではSunと米IBMなどのJava VMを選択して利用できるようになったわけだ。

Sunが出したビジュアル開発ツールForte for Javaは,JBuilderにとってライバルだと思うか。
 Javaのマーケットを大きくしてくれるなら,だれのどんな製品でも歓迎するよ。市場シェアの調査を見ると,JBuilderがトップで,ライバルはVisualAge for JavaとVisual Cafeだろう。Forteは,まだ注意すべき段階には来ていない。そもそもSunはハードウエア会社で,ソフト作りはうまくない。ソフト会社を買収しても,人が出て行ってしまうから,なかなかうまくいかないよ。

Macintosh用のJBuilderはいつ出すのか。
 もうできてる。MacOS Xの出荷を待つだけだ。米Apple Computerがそれをいつ出すか,私の口からは言えないな。

最後に日本の開発者たちにメッセージを。
 すでに当社の開発ツールを使っている人たちには「本当にどうもありがとう」と言いたい。当社の財務状況はとても良好で,今後の投資力に問題はないので安心してほしい。まだ当社の製品を使っていない人たちには「興味を持ってくれて本当にどうもありがとう」と言いたい。私たちはあなたの特別な(premier)プロバイダになる準備ができている。

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