現在,多くのプログラミング言語がオブジェクト指向の概念を取り入れている。オブジェクト指向は,再利用やメンテナンスのしやすさを重視することからわかるように,もともとプログラマが“楽”をするために考えられた(もちろん,それだけではないが)。しかし,いつの間にかオブジェクト指向に苦しめられるプログラマが増えてしまっている。オブジェクト指向モデルの表記法であるUML(Unified Modeling Language)についても,苦労して勉強し,いやいや適用しているという人が多い。

 オブジェクト指向学とかオブジェクト指向の研究といった雰囲気の本には,苦労して勉強した後に,また苦労してオブジェクト指向を実践せよと説いているのではないかと思わせる本も多い。こういう本ばかり読んでいると,「プログラミングの学習は精神鍛錬だ,苦労は多いほどよい」と考える修験僧のような言語マニアになっていくように思えてしまう。

 ここでは,できるだけ迅速かつ楽にオブジェクト指向やUMLを身に付けられる本や,学ぶより使うことをメインにする本を紹介しよう。

ドリル形式の練習帳であっという間に基本を身に付ける

オブジェクト指向
ワークブック

山田 健志 著
平鍋 健児 監修
翔泳社 発行
2003年2月
119ページ
UMLワークブック
山田 健志 著
平鍋 健児 監修
翔泳社 発行
2003年3月
167ページ

 最初に紹介するのは「オブジェクト指向ワークブック」と「UMLワークブック」である。これらの本は,迅速にオブジェクト指向技術やUMLを習得できるように,小学生のころにやった覚えがある「計算ドリル」や「漢字ドリル」のスタイルを採用している点が興味深い。

 まず簡単な説明があり,その後に多くの練習問題が並ぶ。説明を深めるのではなく,さっと済ませて後は確認しながら使ってみるといったスタンスである。練習問題は,答えを本に直接書けるようにスペースをとってある。

 「オブジェクト指向ワークブック」では,サンプル・コードとしてJavaが使われているが,Javaについての知識はさほどなくても理解できるだろう。何らかのオブジェクト指向言語を一度かじったことがあれば理解できる。構成は,Part1が概念,Part2が実践,Part3が知識というように3部しかない。全体として薄い本だが,Part1のオブジェクト指向の概念を説明しているのはたった25ページだ。まさに,さっと学んですぐに実践しようというスタンスである。

 「UMLワークブック」も,概念や基礎知識などはさらっと学んで,いち早く実際に使えるようになろうといった姿勢の本である。なんと「UMLとは」で始まるPart1基礎知識はたった9ページである。あとは,ユースケース図やクラス図,ステートチャート図などUMLダイヤグラムを実際に書くための練習帳となっている(もちろんポイントとなる説明は付いている)。

 2冊とも説明が今ひとつ足りないと感じる部分がある。できれば,独学するというのではなく,詳しい人の説明を受けられる環境で,これらの本を使うのがよい。逆に言えば,授業や社員研修のサブテキストとして使うには,格好の本である。

モデリングがまったく初めてなら説明がやさしいこの本

体験オブジェクト指向
はじめるUMLモデリング

山田 正樹 著
技術評論社 発行
2003年5月
222ページ

 あまり人から説明を受けずに,正確なモデリングができるようになりたいという入門者ならば「体験オブジェクト指向はじめるUMLモデリング」がお薦めである。

 オブジェクト指向やモデリングについて知らない人でも読み始められるように,初歩的なことから実にていねいに説明している。例えばモデリングと一口に言っても,「要求モデリング」「概念モデリング」「仕様モデリング」「実装モデリング」の4段階のモデリングを順に説明しているので,モデルがどう変化していくかを理解しやすい。プログラミングを知らなくても仕様モデリングまで容易に理解でき,UMLの図を描いて使えるようになるだろう。実装モデリングの説明ではJavaを使っているが,簡単に他の言語に読み替えることができるはずだ。

 当然,通常のUML解説本のように図の意味や描き方の説明はある。だが,それよりも「使い方(モデリングのそれぞれの過程において,どの図をどのように使うか)」の方に重点を置いている。入門者向けの本ではあるものの,中級者も参考になる実践的な本である。

一人じっくり勉強して深く理解したいならこの本

独習UML 改訂版
Joseph Schmuller 著
長瀬 嘉秀 監訳
多摩ソフトウエア 訳
翔泳社 発行
2002年6月 419ページ+CD-ROM

 オブジェクト指向や,UMLの一つひとつのダイヤグラムについて詳細に知りたいのなら「独習UML 改訂版」がよいだろう。最初にUMLの基礎知識として,UMLの紹介からオブジェクト指向の概念まで約70ページを割いて詳しく説明している。オブジェクト図とクラス図以外のダイヤグラムを詳しく説明するのはそれからだ。

 後半ではケース・スタディとして架空の開発プロジェクトにUMLを適用し,各種モデル要素の働きを解説。最後に「今後の展望」としてデザイン・パターンや組み込みシステムへの適用の可能性について述べる,といった構成だ。

 コードは極力使わずに説明しているので,どの言語を学習した人でも読みこなせる。UML全体をカバーしており,UML学習書の定番とも言える本である。

VBを使ったUML入門書

Microsoft
Visual Basic .NETで学ぶUML

小松 順子 著
日経BPソフトプレス 発行
2003年1月
259ページ

 フリーのツールも含め,最近のUMLモデリング・ツールは優秀で,UMLダイヤグラムを描いたら,コード生成(クラスのひな型など)までほぼ全自動で実行できる。

 しかし,どのようなダイアグラムを描くと,どのようなコードが作られるのか,手で変換するにはどのようにすればよいかなど知っておいた方がいいことは結構多い。このように考えると,Visual Basic(VB)ユーザーは不利かもしれない。UMLモデリングの解説本は多くがJavaをベースに説明しているからだ。

 そんな数少ないVBプログラマ向けオブジェクト指向解説の良書としては「Microsoft Visual Basic .NETで学ぶUML」を推す。これはタイトル通り,オブジェクトの概念からUMLまで,Visual Basic .NET(VB .NET)を使って説明している。

 例えば,ポリモーフィズムの説明をするにも,具体的なVB .NETのコードを使う。UMLのダイヤグラムから,どのようなVB .NETのコードができるのかも具体的に示している。ただし,VB .NET自体の解説はないので,その点は注意してほしい。

楽しく読んで知らぬ間にオブジェクト指向を身に付けよう

オブジェクト脳のつくり方
牛尾 剛 著
長瀬 嘉秀 監修
翔泳社 発行
2003年7月
315ページ+CD-ROM
オブジェクト嗜好度
向上計画

井上 樹 著
翔泳社 発行
2003年5月
236ページ

 ある程度オブジェクト指向を勉強したのに,どうもすっきりとプログラムを書けないとか,周りの人間にうまい説明ができないという人にお薦めなのは「オブジェクト脳のつくり方」と「オブジェクト嗜好度向上計画」である。どちらも,机に向かって読んでまじめに勉強するのではなく,気軽に読んで楽しむタイプの本である。

 「オブジェクト脳のつくり方」は,「さほど難しくない演習をしているうちに,あるきっかけによって突然オブジェクト指向がすいすい理解できるようになる」と説き,この状態を“オブジェクト脳の芽生え”と呼んでいる。この本では,そうなるための演習を行い,芽生えたオブジェクト脳を鍛え,さらにはチーム・メンバーの脳をオブジェクト脳に変え,さまざまなプロジェクトをオブジェクト脳らしく解決する方法を解説している。

 一方「オブジェクト嗜好度向上計画」は,オブジェクト指向の説明で使われる用語説明からUML,分析/設計の方法,XP(エクストリーム・プログラミング),再利用度の向上など,オブジェクト指向の全般的な話題をカバーしている。

 書かれている内容は,多くのオブジェクト指向の参考書と変わらないが,軽快な文体のため,読み物として気楽にページをめくることができる。