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音楽のヒットランキング情報を提供し続けているオリコン。同社では、昨年から音楽配信ビジネスにも乗り出している。アップルの参入により、活気づいている感のある音楽配信について、社長の小池恒右氏に聞いた。
Q.なぜ音楽配信サービスに取り組みだしたのか。
A.狙いは3つあります。エルダー層の開拓、旧譜の活性化、そして対価がきちんと支払われないコピー楽曲の駆逐です。
1990年代から減少が始まっている若年層。音楽を楽しむ中心層が目減りしていく中で、エルダー層の取り込みは欠かせません。若い人たちだけをターゲットにしてきたこれまでのCD産業のあり方では、やっていけなくなります。その施策として、音楽配信のスキームを新聞社のWebサイトへ提供しています。新聞社のサイトへ来るのはエルダー層が多い。また、新聞社には、社会・経済・スポーツなどあらゆる分野のアーカイブ情報があります。これとオリコンのランキング情報を紐付けるわけです。
例えば、1986年はこんな年でしたね、というデータがあるとします。そこに、オリコンのランキングは当時こうでした、とあれば、当時にタイムスリップして、買ってくれる可能性があると思うんですよね。また、ある程度以上の年代の人はレンタルに対する抵抗感があるんですよね。いきなりネガティブに感じるんですよ。アルバムを買うまでではないけれど、1、2曲欲しいなと思っていた普通の若い人だったら、レンタルを利用する。エルダー層は必ずしもそうではない。レンタルはちょっと、と躊躇する人でも音楽配信なら買っていただけるはずです。気軽に1、2曲ダウンロードする人が増えてくると思うんですよね。
Q.旧譜の活性化とはどういうことか。
A.音楽配信なら、CDショップの棚に置けなかったような幅広いラインナップが実現できる。どのお店も、棚におけるのはだいたい100アーティストなんですよね、。この数が200とか300になれば、そのなかに必ず聞きたいものが出てきます。普段ジャズやクラシックに触れない層でも、数曲の試し買いで気軽に新たなジャンルへ手を出すことができます。こうした相乗効果も狙って、ラインナップを増やしてカタログを活性化していきます。これをしないと音楽産業はどんどんシュリンクしちゃいますので。
CDショップと連携した音楽配信も展開していきます。手始めに、山野楽器、新星堂など10社ほどのWebサイトに、オリコンの音楽配信サービスをASP提供します。新譜や人気曲は店頭で買ってもらって、旧譜など店頭にない楽曲はパソコンでダウンロードして買っていただくわけです。最終的には、店頭に音楽配信対応のキオスク端末を設置して、店頭に置いていない楽曲をその場で買っていただけるようにしたいと考えています。
音楽配信が広まったとしても、CDの売り上げは減らないと思います。ディストリビューションは絶対多様なほうがいい。セルとレンタルも、うまく共存していた90年代前半があったんです。ずっとCDの売り上げが伸びた時代がありました。あの時代は、レンタルがうまくプロモーションの効果を担っていました。あるアーティストの楽曲にレンタルから入って、気に入ったら買うという。多様なほうがいいんです。ただ、そこからコピーが大量発生しているのが問題であって。
Q.そのコピー楽曲の件について、音楽配信ならそれを駆逐できるというのはどういうことか。
順を追ってお話しましょう。まず、CDの売り上げがどんどん縮んできています。ところが一方で、JASRACの権利料徴収額は右肩上がりに増えているんです。つまり、音楽に接する機会というのは増えているはずなんです。なのにCDが売れない。これは、例えて言うならば、いくら上から上質の音楽を流し込んでも、流し込むバケツに穴があいているようなものです。どこからか、権利者が正当に受け取れるはずの対価が漏れてしまっているのです。これだけCD産業が落ちているのは日本だけなんです。韓国は元々小さい市場しかなかったのが、ファイル交換の蔓延で死滅してしまいました。
ブロードバンドの普及や、記録媒体であるHDDやフラッシュメモリーの価格低下といった状況は各国共通です。CD産業を苦しめる日本独特の原因は何か、と突き詰めていくと、これはコピー問題が背景にあるとしか思えない。それも、レンタルから派生している中古、コピーがそうです。権利者に対して対価が支払われないものが流通しているのです。
コピーや中古を生み出すだけでなく、レンタルそのものも対価を十分に払っているとは僕は思わないんです。レンタルのマーケットは約600億なんですが、レコード会社に対してはその15パーセント、90億しか払われていません。CDショップは、レンタル店と同じ設備投資や人員配置が必要なのに、レコード会社へ7割持ってかれてしまいます。同様の商材を扱っておきながら、片や原価率15パーセント、片や原価率70パーセントというのでは勝負にならないでしょう。
これだけコピーをとるのが簡単な時代に、レンタルの制度は旧来のままきている。CDというパッケージテクノロジーの時代は終わってるんですね。次世代メディアに移行してなきゃおかしかった。ところが、(著作権管理の強固な)SACDにしてもDVD-Audioにしても、スタンダードになることなく皆素通りしそうな感じです。裸のままコンテンツを流通させてるエンターテイメントはCDしかない。
CCCDは導入の仕方がまずかった。十分な社会的な根回しがないままにやっちゃって。すぐ、いろんなアーティストが「CCCDは音質が悪い」とかコメントして。すごく音質が悪いイメージもついてしまいました。確かにサンプリング時にいろんな情報を付加するから、どうしてもあのやり方では音は悪くなるんですけども。ただ、もう少し技術を熟成させて、社会的コンセンサスの元で出せばもうちょっと違ったと思うんです。
プロテクトはかけて当たり前と思いますが、よりセキュアなメディアを導入するのも当面難しい。まだしばらくはCDの時代が続く。となるとやはり問題は、レンタルからの対価なんですよね。いったいここからいくら回収できてるんですかという。
我々が音楽配信を始めたきっかけはまさにそこに理由があります。対価の支払われるディストリビューションである、音楽配信こそがレンタルを駆逐していくと考えたのです。正当な対価の支払われないもののリプレース、旧譜活性化、エルダー層の開拓というのは、音楽業界のテーマでもあるんです。これを掲げれば多くのレーベルの賛同を得られるはずだという確信があります。そうすれば、われわれが最もラインナップの充実した音楽配信になるとも思います。
Q.音楽配信が普及するための課題とは何か。
音楽配信が、レンタルや中古を駆逐すると仮定すれば、最低でも1000億円のマーケットは形成できるでしょう。ただし、まずは価格がレンタルのレベルに近づく必要があります。1曲100円くらいが1つの目安になりますね。本格的に普及するには、80円くらいまで下がらないとダメじゃないかな。音楽配信であれば、レコード会社には7割以上リターンがありますから、この程度の価格でも、レンタルの代替と考えれば反対する理由はないはずです。
配信楽曲数については、新譜や大物アーティストなど、CDでの販売が期待できるものについては、じょじょに広がっていくんでしょうね。過去のランキングとの連動を考えた場合には。旧譜の充実も必要です。
音楽に触れる機会を提供することも大事です。9月から、Webオリジナル番組のオリコントップ20(トゥエンティー)を当社のサイトで配信開始します。7分ぐらいに編集されていて、これさえ見れば、今の音楽ヒットシーンがすべて分かるという内容です。ここで紹介した曲はサイト内で買えるようにする予定です。当然、昔を振り返る番組もやりたいと思っています。(聞き手・安藤智彦=日経パソコン)