インタビューに答えるパートナー兼シニアストラテジストの中岡聡氏
 多チャンネル放送、ビデオ・オン・デマンド(VOD)のプラットフォーム「4th MEDIA」を手がけるぷららネットワークス。サービス開始から約1年経った同社の現状、および展望について、同社のパートナー兼シニアストラテジストの中岡聡氏に話を聞いた。

■現在、日本ではKDDIやビービーケーブルなど計5社が多チャンネル放送およびVODサービスに参入している。御社のシェアは?

 我々はサービス開始から約1年経ったということで、約2万1000人というユーザー数を公開しているが、他社は公開していないので分からない。ただ、聞いた話などを総合する限り、うちがリーディングカンパニーであることには間違いない。ほかに1万人を超えているのはKDDIくらいではないだろうか。

■サービス開始時、約1年間で20万ユーザー獲得を目標としたが、ふたを開けてみると10分の1しかない。

 これはADSLユーザーが我々の予想に反し、まったく反応しなかったからだ。加入者の9割以上がFTTHユーザーだ。もともと、ADSLのマーケットがいつまでも続くとは思ってはいなかったが、マーケットを立ち上げるといった意味では大きな誤算だった。ただ、長期スパンで見れば、FTTHユーザーがきちんと反応してくれた点はうれしい。こうした経緯もあって「4th MEDIA」は6月30日をもってADSLユーザーの新規受付を終了した。

■では、加入したユーザーの動向についても、いくつか誤算があったのではないか。

 うれしい誤算ならある。当初、我々の予想では多チャンネル放送とVODコンテンツが2本無料で視聴できる月額2415円のレギュラープランへの加入が3割、多チャンネル放送は付かず、VODコンテンツだけ2本無料で視聴できる月額577円のライトプランへの加入が7割と読んでいた。なぜならネットユーザーは料金にシビアだと思っていたからだ。それが、ふたを開けてみたら逆だった。レギュラープランが7割、ライトプランが3割だった。ARPU(1人当り単価)が予想以上に大きく、これは弊社にとってうれしい誤算だった。結局このことから気付かされたことは、ユーザーにはお金があるということ。お金に見合うサービスだったら、きちんと使ってくれるということが分かった。
 VODの無料で視聴できる本数については我々の読み通り。加入者の視聴平均本数を見てみると月0.8本ほど。別途支払いが必要な有料コンテンツは月平均1本以上見られており、合計すると月2本程度。加入者から無料で見られる視聴本数を2本から5本にしてくれとか、見放題にしてくれとか、そういうニーズはまったくない。あるのは、携帯電話のパケット繰り越しサービスのような、今月の見なかった料金分を翌月に繰り越せるようにしてほしいという声だけ。提携先のハリウッドメジャー(米国の映画会社など)側との調整が必要なので、すぐに実現できるわけではないが、要望は先方にも伝えている。

■VODのニーズはないということか。

 いや、VODのニーズはある。ただ、それほど大きなニーズではないということだ。家の隣にレンタルビデオ屋があるからといって、ほとんどの人は1カ月に10本も借りてきて見ないだろう。つまり、VODとレンタルビデオ屋のニーズは一緒だと思えばいい。レンタルビデオの市場は2000億円程度なので、VOD市場も成熟したらその程度までは広がるだろうが、それ以上にはならない。

■多チャンネル放送のニーズについてはどうか。

ぷららネットワークスが整備したスタジオ設備。「いずれ、このワンフロア全部を放送用の設備にしたい」と中岡氏は語る

 現在の日本において、お金を払って多チャンネル放送を見ている家庭は全世帯の20%くらいだと見ている。CATVの視聴世帯がだいたい450万世帯、スカパー!などその他が380万世帯。合わせて830万世帯ほどだ。総務省の統計によると日本の世帯数は4900万世帯ほどだが、我々は2世帯住宅を1世帯と勘定している。その分を差し引くと、世帯数はおよそ4000万から4300万世帯ほどになるだろう。このことから多チャンネル放送の利用世帯がおよそ20%という数字がはじき出せる。
 一方、米国では全世帯の70%の家庭が有料の多チャンネル放送を視聴している。もちろん、多チャンネル放送がアメリカで普及したのにはさまざまな理由はある。ただ、ひとつ言いたいのはアメリカ人に向けて作ったコンテンツを、アメリカ人がお金を払って見るというのは至極当然ということ。一方、日本を見てほしい。日本の多チャンネル放送で流れているのはいまだにハリウッドで作られた映画などが多い。
 日本で、より多チャンネル放送に対してお金を払ってもよいという家庭を増やすためには、“日本人が日本人のために作るコンテンツ”が必要だ。最近は地上波放送局によるネット配信で新聞がにぎわっているが、過去のドラマがさまざまな多チャンネル放送に流れてきたら、もっとお金を払ってでも見たいと思う人が増えるのではないだろうか。多チャンネル放送市場の底上げには、こうした“コンテンツ”の中身も重要になってくる。

■「4th MEDIA」はプラットフォームビジネスとうたいながら、卸先のプロバイダーは増やすつもりはないという。これはどういうことか。

 当社のプロバイダーである「ぷらら」以外に、「4th MEDIA」のプラットフォームを提供しているのは@nifty(ニフティ)、BIGLOBE(NEC)、So-net(ソニーコミュニケーションネットワーク)、hi-ho(パナソニック ネットワークサービシズ)の4つだ。計5社でフレッツユーザーの約6割を占めている。NTTコミュニケーションズのOCNを入れると8割程度までいくのではないか。これら以外のプロバイダーにも現在の形で同等のサービスを提供していくのは業務効率のことを考えると難しい。別途、利用プロバイダーを問わないようなプランを今年の夏から秋までには用意するつもりだ。ただし、現在提供しているプランよりは料金を高く設定するつもりだ。

■フレッツユーザー向けで、かつプロバイダーフリーのプランとなると、今年3月に参入した「オンデマンドTV」(運営はオン・デマンド・ティービー)と真っ向から競合する。

 彼らは、顧客に直接リーチすることができない点で弱い。我々はインターネット接続、IP電話、映像配信という3つを組み合わせたサービス提供(トリプルプレイ)で顧客にアピールできる。既存プロバイダーと一緒にやっていくのが正しい姿と思う。

■NTTグループ内では、NTTコミュニケーションズの「OCN Theater」とぷららの「4th MEDIA」という2つのサービスが重複している。コンテンツ調達などで協力している部分はあるのか。

 ハリウッドメジャーとの交渉において、ボリュームディスカウントが効くことはまずない。それは彼らがコンテンツを“資産”と考えているからだ。彼らは、多くの人が見るとそれだけ資産価値が下がっていくという考え方に立っている。一番いい例が地上波放送局だ。彼らはおそらく国内で一番高い価格でハリウッドのコンテンツを購入している。もし、より多くのユーザーが視聴すれば価格が安くなるというボリュームディスカウントがコンテンツ購入で成り立つのなら、テレビ局の方が我々よりも格安で購入しているはずだが、現実はそうではない。
 一緒に交渉をしたからといって、価格が上がることはあっても下がることはないので、NTTコムと共同でコンテンツ購入の交渉するということはない。ただし、いずれNTTグループのなかで再編は起きる。グループをどのように効率化していくかという話のなかで、企業を一つにまとめ、サービス自体も統合するという可能性は十分ある。

■米国ではコンテンツは“資産”という考え方とのことだが、日本はどうか。

 どちらかというと“消費財”として捉えられることが多い。一度流してしまったら基本的には終わり、というものだ。  日本でもコンテンツは資産だという考え方が浸透すれば、もっとコンテンツは流通をし始める。資産は運用して価値を増大させるものだからだ。この観点から見ると、日本はちょうど米国の30年前と同じ状態にいる。
 米国では1970年初頭に「フィン・シン・ルール」「プライムタイム・アクセス・ルール」という2つの規制を入れた。フィン・シン・ルールは簡単に言えば、地上波放送局が外部制作番組の配給権や所有権を持つことを禁止するというもの。つまり、権利は制作した外部の制作会社が持つことになり、コンテンツの流通に一役買った。プライムタイム・アクセス・ルールは地上波放送局に対し、月曜から土曜のプライムタイム(局の定める午後6時から午後11時までの間の連続した3時間半)のうち最低でも1時間以上は系列以外の番組の放送を義務づける規制。
 こうした状況下で外部の制作会社は育った。制作のマーケットは広がり、再販を行うようになった。コンテンツが流通するわけだ。規制ではなくとも、いろいろな手法があると思う。日本でもコンテンツ流通を進めるために国レベルでの政策がもっと必要だと思う。(聞き手・原 隆=日経パソコン)