アジア太平洋地域のIPアドレスを管理するAPNIC(asia pacific network information centre)は2005年2月8日付で,国内でYahoo!BBを運営するソフトバンクBBに「126.0.0.0/8(126.0.0.0~126.255.255.255)」という巨大なアドレス空間を割り振った。このサイズのアドレス空間は,旧来の呼び方ではクラスAに当たり,IPアドレス数に換算すると,約1678万個分である。

インターネットの黎明期を除くと,これほど巨大なIPアドレス空間が単一のプロバイダに割り振られるのはおそらく初めて。ソフトバンクBBは今回の割り振り分を含め「約3600万個」(ソフトバンク広報)のIPアドレスを保有することになった。

今回のIPアドレス割り振りの経緯について,日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)のIPアドレス担当理事であり,APNIC理事会議長でもある前村昌紀氏(写真)に話を聞いた。

Q:ソフトバンクBBへの割り振りはどのような経緯で行われたのか

正式な手続きを踏んだ申請の結果,割り振られたと聞いています。特別な配慮や思惑が働いたわけではありません。今回,ソフトバンクBBから出された申請の内容が妥当であるとAPNICが認めただけの話です。

IPアドレスの割り振り申請には,1年くらい先までの需要予測とそれを証明する書類が必要になります。また過去の数年間の実績も考慮されます。

まず,ソフトバンクBBには,過去3年間にわたる実績がありました。彼らには毎年約650万個のIPアドレスが割り振られており,それをきちんとユーザーに割り当てて消化してきています。その間,自社のネットワークの技術仕様をAPNICのスタッフの要請に応じて開示したりもしています。時間をかけて信頼関係を築いて来たとも言えますね。

こうした過去の実績や信頼関係を踏まえたうえで,今回の申請を受理しています。APNICとしてはイレギュラだともセンセーショナルだとも考えていません。今後,他社から同じような申請があれば,受理されると思いますよ。

Q:過去の実績の倍以上をいきなり割り振るのは多すぎるのではないか?

確かに1ユーザーに一つのIPアドレスを割り当てるような用途だけなら「/8」は必要ありません。しかしソフトバンクBBは,1ユーザーに複数のIPアドレスを割り当てるサービスを計画しており,IPアドレスの消費ペースがこれまでの数倍に上がると予測したようです。

1ユーザーに複数のIPアドレスを割り当てる場合,複数のユーザーを同じサブネットで管理するより,1ユーザーに1サブネットを割り当てた方が便利です。ただ,その場合,1ユーザーあたり少なくとも8個のIPアドレスを消化します。ユーザー数が同じように増えるとすると,従来の8倍の消費量になる計算です。

Q:グローバルIPアドレスは余っているのか?

いえ,そんなことはありません。ただ,以前に比べると,IPアドレスの枯渇を必要以上に心配することはなくなっています。アドレス変換技術やCIDR割り当ての普及で,IPアドレス消費の増加ペースは以前より落ちているのです。最新の需要予測ではIPアドレスが完全に枯渇するのは2022年と言われています。

そのため,現在では「必要なところに必要なだけ割り当てる」というのがIPアドレス利用の基本姿勢です。今回の割り振りもこうした原則に沿っています。

Q:国内のプロバイダなのにAPNICが直接割り振っているのはなぜか

あまり知られていませんが,国内のプロバイダはAPNICとJPNICのどちらからでもIPアドレスの割り振りを受けられます。どちらか一つしか選べませんが,どちらを選ぶかはプロバイダの自由です。ソフトバンクBBは設立当初からAPNICの割り振りを受けているプロバイダの一つで,こうしたプロバイダは国内に50社ほどあります。

ただ,両者の違いは審査をどちらでやるかだけです。審査基準も同じです。また,どちらに申請してもAPNICが一括して管理するIPアドレス空間から,妥当な量の空間が割り振られます。国別にアドレス空間を管理しているわけではありません。

(山田 剛良=日経NETWORK