2004年10月の新潟県中越地震に続くように,2005年3月の福岡県西方沖,4月の千葉県北東部と,強い地震が立て続けに発生している。こうした中,ネットワーク技術を地震対策に役立てようという動きが出てきた。インターネットで地震情報を各家庭に配信するシステムの実証試験を,電子情報技術産業協会(JEITA)が4月1日に始めたのだ。今回はこの実験について見ていこう。

 地震の揺れは,いち早く伝わる「初期微動」とその初期微動に遅れて到達する「主要動」の二つがある。JEIDAの実験システムでは,気象庁が初期微動をいち早く検知し,そのあとに続く主要動が各家庭に届く前に,インターネット経由で家庭に地震データを配信する。家庭では「震度5,あと10秒後に到達します」といった音声を流して対処を促す。

 各家庭向けの地震データは,各地にある協力会社のサーバーが作る。JEITAのサーバーは「どこで,いつ,どのくらいの大きさ」という生の情報(リアルタイム地震情報)だけを協力会社のサーバーに配信する。その地震情報と各家庭の震源からの距離に基づき,協力会社のサーバーが地震データを算出する。こうした工夫でサーバーの処理時間が抑えられ,インターネット経由でも平均0.5秒の遅延で済む。

 JEITAは,2006年度中の商用サービス開始を目標に,製品開発にも力を入れる。装置の価格を10万円以下,サービス価格を月額1000円以下に抑える目処はついたという。

 今後の最大の課題は,100万ユーザーの規模で普及したときのサーバーにかかる負荷である。大規模配信ではサーバーのパケット送信の負荷が重くなり,大きな遅延が発生する。

 この課題に解決策がないわけではない。例えば,途中のルーターがパケットをコピーして転送していく「IPマルチキャスト」は,インターネットのインフラをそのまま使える。ただし,複数のISPをまたがった運用はまだ難しい状況にある。このほか,データ伝送に衛星やFM波を使う提案もある。課題はあるだろうが,ぜひとも新しい警報システムを実用化してほしいところだ。

高橋 健太郎