これからはもう,出先にパソコンを持ち歩かなくても済むようになるかもしれない。携帯電話機がどんどんパソコンの機能を取り入れているからだ。最近の携帯電話機はPDFやExcelファイルを表示できたりして,パソコン化が加速している。その最たるものが携帯ブラウザ。パソコンで見ることを想定したWebページを携帯電話機の画面に表示する。画面の狭さはどうしようもないが,Webメールをチェックしたり,時刻表サイトを参照する程度なら十分使える。

 パソコン用のWebページを表示できる携帯ブラウザの皮切りは,2004年10月に公開されたjig.jpのjigブラウザ。続いて2005年1月には,プログラマーズファクトリのScopeプレビュー版が公開された。どちらも携帯電話機にインストールして使うJavaのプログラムである。

 これらが,従来の携帯ブラウザと根本的に違うのは,専用のプロキシ・サーバーを経由してインターネット上のWebサーバーへアクセスする点にある。このため,jigブラウザの場合は月々1050円または年間6000円の利用料を支払うASPサービスとして提供されている。では,そのしくみはどうなっているのだろうか。

 最近の携帯電話機の多くは,Javaのプログラムをダウンロードしてインストールできる。ただし,ダウンロードしてきたJavaプログラムには使用上の制限がある。セキュリティを保つために,ダウンロードしたサーバーにしかアクセスできないのだ。

 そこで,jigブラウザは唯一アクセスできるダウンロード元のサーバーをプロキシ・サーバーとして利用する。つまり,jigブラウザはWebサーバーへのアクセス要求をすべてjig.jpが運用するプロキシ・サーバーに送り,プロキシ・サーバーがWebサーバーへアクセスする。

 このようにプロキシ・サーバーを使うのは,必ずしも苦肉の策というわけではない。むしろ,携帯電話機の非力さをカバーするために,積極的にプロキシ・サーバーの能力を活用している。例えば,日本語文字コードの変換処理はサーバーが担う。パソコン向けWebページでは,日本語のテキストを表示するのにさまざまな文字コードが使われている。そこで,プロキシ・サーバーは,さまざまな文字コードの日本語テキストを携帯電話機で扱えるシフトJISコードに変換する。

 また,動画データやスクリプトはjigブラウザでは扱えないので,そうしたデータが埋め込まれたWebページへアクセスした場合は,プロキシ・サーバーが削除してから携帯電話機で動くブラウザに返信する。さらにプロキシ・サーバーは返信の際にデータを圧縮する。表示に必要な最小限のデータをjigブラウザに届けるわけだ。こうした工夫を加えることで,Webページを表示するまでの時間を短縮している。

三輪 芳久