2004年11月に日本国内のインターネットで流れたトラフィックは平均324Gビット/秒――。これは,総務省と7社の大手ISP(インターネット接続事業者),学識経験者が協力して試算した結果である。

 以前から,トラフィックの急増でインターネットのバックボーンがもたないという声がISP業界から上がっていた。しかし,そうした問題を議論しようにも,実際のトラフィックの情報はほとんどなかった。そこで今回,ISPの協力でブロードバンド回線でやりとりされるトラフィックを集計したのだ。そこから推定した全体のトラフィックが324Gビット/秒という値である。

 今回の調査では,トラフィックの総量に加え,ほかにも興味深い情報がいろいろと得られた。

 例えば,トラフィックが少ない早朝の時間帯でも,7社合計で80Gビット/秒以上のトラフィックが流れていることがわかった。これはピーク時の半分近くに当たる。P2Pファイル共有ソフトなどを利用する一部のユーザーが多くの帯域を占有していることがうかがえる。

 さらに興味深いのは,トラフィックの伸び率である。2004年9~11月の集計結果を年率に直すと,200~300%という結果になった。つまり,毎年2~3倍の勢いでトラフィックが増加していることが確認されたのである。「以前から年率2~3倍と言われていましたが,トラフィック全体の動きはわかりませんでした。今回,それが確認できたことは大きい成果と言えるでしょう」(インターネットイニシアティブの戦略企画部の三膳孝通部長)。

 年率で2~3倍になるとは,一般の目から見ると驚きである。しかし,ISPはこの結果を前にして冷静だ。「予想から大きく外れていませんでした」(ソフトバンクBBの技術本部 バックボーンネットワーク技術部の倉本義史部長)。ISP各社は,今回の試算のベースとなるトラフィックのデータを独自に記録している。それを見るとおおよその値は予想できたという。

 今の時点で回線容量が足りないという話は聞かれない。「最大トラフィックが回線容量の50%を超えないように常に増強しています。今のところまったく問題ありません」(NTTコミュニケーションズのブロードバンドIP事業部 IPテクノロジー部の谷島隆彦担当課長)。今後のルーターや回線の増強についても,技術面では目処が立っていると説明する。

 ただ,技術的には問題がなくても,楽観できない。ブロードバンド回線のトラフィックが増えても,ISPの収益に結びつくとは限らないからだ。いずれ回線の増強コストをまかなうのが大変になるのは想像に難くない。体力のあるISPなら耐えられるかもしれないが,すでに一部のISPがユーザーのトラフィックを制限する動きが見られる。

 ISPの事業的な側面から考えると,トラフィックの今後の増加傾向がどう推移するのか気になるところだ。トラフィックの集計・試算は継続していくという。半年に1回,6月と12月に公表することになっている。

高橋 健太郎