2004年11月15日,「インターネットの通信で最高性能を記録した」というニュースが飛び込んできた。内容は,3万1248km離れた場所にある10Gイーサネット対応のパソコン同士をWAN回線でつなぎ,TCP/IP通信で7.2Gビット/秒のデータ転送速度を実現したというものだ。実験をしたのは,東京大学のプロジェクト・チームである。

 でも,10Gビット/秒のイーサネットを使ったのだから10Gビット/秒に近いスループットが出てもいいはず。それなのに,なぜ7.2Gビット/秒という数字がすごいのだろうか。

 10ギガ・イーサネットのLANアダプタを搭載したパソコン同士で通信した場合,常に10Gビット/秒のスループットを出せると思いきや,実際はそうはいかない。TCPを使う通信だと,経路途中でパケットがロスした場合,再送メカニズムが働いてスループットが落ちるからだ。伝送距離が長くなるほど経路途中にあるルーターやLANスイッチなどの中継機器の数が多くなるので,それだけパケットをロスする可能性が高くなる。

 また,通常のLANアダプタはデータからフレームを作るとすぐ,連続的に回線に送り出す。このとき,LANアダプタがフレームを送り出す速度が速いと,経路途中にある機器は続けて届いたフレームを処理しきれずに廃棄してしまう可能性が高くなる。そのため,「こうした長距離伝送で10ギガ・イーサを使った場合は,1~2Gビット/秒程度出ればいい方」(東大の平木 敬教授)なのだという。

 そこで東大のチームは,フレームの送出間隔を調整する「ペーシング」と呼ばれる技術でスループットの向上を図った。LANアダプタはTCPが計算したスループットに合うようにフレーム送出間隔を調整する。こうすれば,経路途中の機器に負荷がかかりにくくなるというわけだ。実験では,ペーシング機能を持った米チェルシオ・コミュニケーションズのLANアダプタを採用し,フレームの送出間隔をチューニングすることで今回の記録を実現した。

 この実験でもう一つ注目すべきなのは,既存のTCP/IPやイーサネットのしくみをそのまま使っているところ。平木教授は,「企業や家庭で一般的に使われているLANアダプタがこのペーシング機能を搭載すれば,実効速度を高められる」と見ている。

 どうやらペーシングは,オフィスや家庭のLANアダプタにも適用できる技術と言えそうだ。

半沢 智