ネットワークを利用したり,運用するとき,残念ながらトラブルは避けて通れない。そこで今回は,そんなトラブルの事例を一つ見ていこう。

 2003年の春のこと,イベント制作会社の新入社員だった奥田 敦司さんは,翌日から学会が開かれる会場の一角で原因不明のネットワーク・トラブルと格闘していた。このネットワークは,来場者に資料を印刷したりインターネットで調べものをするための環境を提供するもの。インターネットに接続された回線をLANスイッチで分配し,机に並べた10台くらいのノート・パソコンとプリンタをつなぐ小規模なネットワークである。

 そのネットワークで,なぜか一部のパソコンがうまく動かない。LANスイッチのリンク・ランプは点灯するのに,通信できないのだ。

 奥田さんは最初,パソコン側の設定ミスを疑って,LAN機能の設定をいろいろ変更して試していた。そのうちに,パソコンのLAN機能を10メガ・イーサネットに固定すれば,不調のパソコンでも通信できることに気づいた。100メガ・イーサネット対応のパソコンは,LANの速度の自動認識機能を持っている。この機能をオフにして,通信速度を10メガに設定すると通信できたのだ。

 奥田さんは試しに,10メガでしか通信できないパソコンを別のLANケーブルにつないでみた。すると,ちゃんと100メガで通信できるではないか。ここで奥田さんは,LANスイッチとパソコンを接続するLANケーブルに疑いを持った。

 パソコン・コーナーで使っていたLANケーブルは,市販のものと奥田さんたちが会場で手作りしたものが交ざっていた。トラブルを起こしたパソコンは例外なく自作ケーブルを使っていた。とはいえ,ケーブルの長さはどれも3~5mで過剰に長いわけではない。作った後にケーブル・チェッカで確認したので,配線ミスもないはず。接続するとリンク・ランプも点灯する。

 半信半疑だったが,奥田さんたちは自作ケーブルをすべて市販のケーブルに取り替えた。するとすべてのパソコンが100メガで通信できるようになった。

 このトラブルの原因はケーブルの作り方にあった。

 イーサネット・ケーブルは,内部に2本の心線をよって組にしたより対線が4組入っている。10メガ/100メガ・イーサネットでは,4組のうち2組をそれぞれ送信と受信に使って通信する。具体的には,コネクタのピン番号が1番2番の組と3番6番の組を使う。

 信号線をより対にするのはノイズ対策のため。100メガ・イーサネットでは10メガに比べて高い周波数の電気信号を使って通信するので,外部からのノイズの影響は10メガより受けやすい。そのため,100メガ・イーサネット用のLANケーブルは,コネクタ部分でよりを戻す長さが13mmまでと規格で決まっている。また,実際に送受信に使うピン番号1番2番と3番6番が,それぞれ1組のより対線に接続されていなければ意味がない。

 しかし,奥田さんは「作業を楽にするため,よりは多めに戻していた記憶があります。また,より対線は1と2,3と4,5と6,7と8のように隣り合わせで配線していました」という。この配線では,3番6番の組がより対の組にならない。コネクタ部分も含めて,通常よりノイズの影響を受けやすいケーブルが出来上がっていた。規格に合致しないケーブルがトラブルの原因になっていたのである。

 このトラブルでは,何台かのパソコンでたまたま問題なく通信できたために,真の原因にたどり着くのに時間がかかった。奥田さんは「100メガ・イーサネットがデリケートだと知っていたけど,これほどとは思っていませんでした」と語った。

山田 剛良