最大75Mビット/秒の伝送速度,最長50kmまでの伝送距離――。こんなに高速で長い距離を伝送できる無線通信技術「WiMAX」(ワイマックス)が米国で注目を集めている。一見すると今までの無線LANをしのぐようだが,一体どこでどのように使われるのだろうか。

 実はこのWiMAX,無線LANとはまったく違った用途を想定して作られた技術である。無線LANは一般的に100m以内の通信距離を想定した「LAN」用の技術。それに対してWiMAXは,数kmから数十kmまでの範囲で使える。

 WiMAXはIEEE802.16と呼ぶ規格に基づいているが,これは大きく2種類に分けられる。一つはIEEE802.16-2004で,IEEE802.16aという規格をベースにこの6月に決められた。最長伝送距離が7k~10kmの固定区間を想定している。もう一つは,現在策定中のIEEE802.16e。こちらは移動端末向けで,最長3k~5kmの通信ができる。

 今とくに注目を集めているのは,すでに規格が固まった802.16-2004。2005年前半には製品が登場する見込みで,そのおもな用途はインターネットなどのサービスに接続するためのアクセス回線である。つまり,電話回線を使うADSLなどの代わりに,通信事業者とユーザー宅を無線で接続しようというわけだ。

 WiMAXが米国で注目を集めているのは,米国の国内事情によるところが大きい。広大な米国では,電話線を使っても郊外の家までADSLの信号が届かない。そこで無線のWiMAXが期待されているのである。

 WiMAXは,無線LAN規格の802.11aや11gと同じOFDM(orthogonal frequency division multiplexing)という変調方式を採用する。1チャネルの帯域幅は20MHz。これも11aや11gとほぼ同じだ。ただし,屋外に固定したアンテナで安定的に電波を送受信するので,電波に載せるビット数を11aや11gよりも多くできる。このため,最大74.81Mビット/秒の伝送速度が実現できるという。

 また,高い位置にあるアンテナから十分強い出力で電波を飛ばすことで,長い距離での通信が可能になる。

 では,肝心の日本でもWiMAXのサービスは始まるのだろうか。実は,日本国内では今のところ,サービス開始のメドは立っていない。日本では無線周波数の帯域に空きがないからである。

 WiMAXの規格では,2G~11GHzのどこかの帯域を使うことになっている。米国や欧州などでは,比較的空いている2.5GHz帯,3.5GHz帯,5.8GHz帯が割り当てられる予定である。しかし,日本ではこれらの帯域はすでにほかの用途に割り当てられている。残念ながら当面は,日本国内でWiMAXを利用することはできない。

高橋 健太郎