ネットワーク関連の技術書などを読んでいると,例として登場するネットワークで「192.168.x.x」といったアドレスがよく使われている。特に覚えやすいわけでもないのに,なぜこのようなアドレスを使っているのだろうか。今回はここに焦点を当てていこう。

 IPアドレスは,IPというプロトコルで相手を識別するのに使うアドレス。世界中のネットワークを相互接続するインターネットはプロトコルにIPを使っているので,インターネットに接続しているすべてのコンピュータは,ほかと重複しないIPアドレスを割り当てる必要がある。このため,インターネットで使われるIPアドレスは,だれがどのアドレスを使っているのか厳重に管理されているのである。このように,一元的に管理され,インターネットで使えるIPアドレスのことを「グローバル・アドレス」と呼んでいる。

 ただし,IPネットワークの技術はインターネットに直接つながっていない社内ネットワークや家庭内ネットでも使える。こうしたネットワークでも,いちいちグローバル・アドレスを割り当てるとなると,手間やコストがかかる。また,限られた数しかないグローバル・アドレスの無駄使いにもなりかねない。

 このように,インターネットに直接つながってないネットワーク向け専用のアドレスを「プライベート・アドレス」と呼ぶ。インターネットに接続しないネットワークで使う限り,特に許可を取らなくても自由に割り当てて使えるアドレスである。

 ご存知の人も多いと思うが,冒頭で紹介した「192.168.x.x」(192.168.0.0~192.168.255.255)の範囲のIPアドレスは,このプライベート・アドレスにあたる。

 社内ネットワークなどではプライベート・アドレスを使うのが一般的になっている。社内からインターネットへアクセスするときは,インターネットとの境界に置いたゲートウエイ装置でIPアドレスをプライベートからグローバルに付け替えるアドレス変換という技術が使われている。

 プライベート・アドレスを割り当てたコンピュータが間違ってインターネットにつながってしまうと,どうなるのだろうか。実は何も起こらない。単に通信できないだけである。プライベート・アドレスのホストはインターネット上に存在しないことになっているので,プロバイダなどのルーターは,プライベート・アドレスあてのパケットを破棄してしまうからである。

 技術書や雑誌の誌面で例示としてプライベート・アドレスを使う理由の一つはここにある。プライベート・アドレスにしておけば,万が一,例示の通りに設定したコンピュータをインターネットに接続しても,大きなトラブルにならない。それに対して,間違ったグローバル・アドレスを割り当てたパソコンをインターネットにつないでしまうと,インターネット上の通信に問題が発生する危険性がある。

 ただし,例示に「192.168.x.x」のアドレスを使わなければならないという決まりはない。それどころか,インターネットの技術規格を定めたRFC(request for comments)のRFC3330では,こうした例示のために使うアドレスとして,「192.0.2.x」(192.0.2.0~192.0.2.255)を割り当てている。このため,RFCに準拠した技術文書では,例として192.0.2.xを使うことが多いようだ。

山田 剛良