日本の地上波放事業者(NHKと民放キー局5社)と国際特許管理団体の「MPEG LA」は2004年3月24日,ディジタル地上波放送における移動体放送で使用する動画符号化方式の特許料支払い条件で基本合意したと発表した。本誌で既報の通り(日経ニューメディア2004年3月15日号p.2参照),符号化方式にはMPEG LAが必須特許を管理する「AVC/H.264」を採用する。特許料の支払い条件は,「地上波放送事業者が無料の移動体放送で使用する符号化装置(エンコーダー)1台当たり,導入時に2500米ドルを支払う」というものである。

 今回の基本合意を受けて地上波放送事業者は,電波産業会(ARIB)が定めた規格(ARIB規格)における移動体放送の運用規程にH.264の採用を盛り込み,メーカー各社が対応端末を開発できる環境を早急に整える。その後の端末の開発期間などから考えると地上波放送事業者は,目標にしていた2005年度中に移動体放送を開始できる見通しになった。

 地上波放送事業者は当初,移動体放送の符号化方式に「MPEG-4」を採用する予定だった。しかし,同方式の必須特許を管理するMPEG LAが,視聴者数に応じて特許料を毎年支払うことを求めたため,地上波放送事業者はMPEG-4の採用を見送り,H.264を採用する方針を打ち出した。しかしMPEG LAはH.264に対しても,視聴者数に応じて特許料を毎年支払うことを求めていた。

 これに対して,今回の基本合意では特許料の支払い方法を視聴者数に応じて毎年支払う「従量制」ではなく,地上波放送事業者が求めていたエンコーダーの台数に応じた1回限りの支払いに変更した。NHKは「従量制では,全国の放送局の合計で毎年約1億円の特許料を支払わなければならなかったが,今回の基本合意によって,支払い額は2500万~3000万円で済むようになった」という。一方,地上波民放事業者が支払う特許料は,全国127社のテレビ放送事業者の合計で約6700万円(1ドル106円で換算,1社当たり約53万円)になるという(3月24日発表)。