会員数520万人、年間売上高639億円を誇るプロバイダー最大手のニフティだが、ライバル同士が連合を組むなど経営環境は厳しさを増している。古河建純新社長に、今後の舵取りについて聞いた。

――プロバイダー事業の将来性に対して厳しい見方が強まっている。

 有料コンテンツなどで利益を上げないとプロバイダー事業が成り立たない、との見方は間違っている。接続サービスだけで十分な利益を確保することは可能だ。ダイヤルアップのヘビーユーザーがブロードバンドに移行しつつあるため、ネットワークにかかる負荷の平準化が進んでいる。大幅なコスト削減が可能となり、もっともうかるようになる。

 ブロードバンドはまだ赤字だが、ハードやインフラの価格低下とユーザーの増加が同時に進行しており、収益性は改善されつつある。ただし恩恵を受けられるのは、ある程度のユーザーを抱えている事業者だけ。最低でも300万人は必要だろう。
 2002年3月期でも、10億円を超える税引後利益を計上している。大規模なM&Aなどを手がけない限り、ブロードバンドに対応するための資金は自己資本でまかなえる。

――ソニーへの売却が取りざたされるなど、富士通はニフティをもはやコア事業と考えていないのではないか。また、ニフティは富士通グループの持つ資産を十分に活かしていないようにも見える。

 富士通の主な顧客は大企業である。そのため、ニフティと富士通が今すぐに互いを有効活用するのは難しい。顧客として大企業を想定している限りにおいては、ニフティに価値はない。
 しかし、企業自体ではなく、そこで働く従業員を対象にネットラーニングなど仕事をサポートするサービスを提供することはできる。また、現在の富士通の営業体制ではSOHO的な中小法人に対応しきれないが、ニフティのネットワークを利用すれば顧客として取り込むことも可能だ。
 ソニーとの件は、我々の立場ではコメントできない。

――NECや松下電器産業などが中心となって設立した「メガコンソーシアム」に対するスタンスは。

 参加するメリットも参加しないデメリットも感じられないというのが、正直な答えだ。何か効果のあることをできるのかどうかピンとこない。ブロードバンド向けコンテンツの買い付けや開発などを共同で行って、コストを削減する狙いがあるらしい。
   だが、コンテンツ提供業者からすれば、コンソーシアムに参加した企業だけと契約を結ぶという選択はナンセンスだ。コンソーシアムに参加しなくても、ブロードバンド向けコンテンツの品ぞろえで後れを取るという事態にはならない。

――1年もかけずに50万人を超えるブロードバンドユーザーを獲得したヤフーは、ニフティにとって新たな驚異なのでは。

 ヤフーはポータルやコンテンツサービスから接続サービスに進出してきた。つまり垂直方向に事業を拡大したわけだが、私には賢いやり方とは思えない。
 プロバイダーとして強くなるためには、水平方向への事業拡大がより重要である。ニフティのユーザーはADSLだけでなくダイヤルアップでもネットに接続できるし、海外でもサービスを受けられる。もちろん無線LANもやる。収益の多角化という面からは垂直拡大が重要なのは言うまでもないが、まずは水平方向での基盤を固めるのが我々の戦略だ。

■プロフィール
ふるかわ・たてずみ 1965年慶応大学工学部卒。富士通信機製造(現富士通)入社。ネットワークサービス本部長などを経て2001年ニフティ副社長に就任し、今年6月26日に社長昇格。

(聞き手は河野 修己=日経ネットビジネス)