Yahoo! BBの登場などで苦戦を強いられる既存のプロバイダー。厳しい環境の中、今年1月にドコモAOLの社長に就任した山川隆氏に、業界再生への展望を聞いた。山川氏はニフティの設立以来、約15年にわたって同社でコミュニティー育成に携わった専門家である。

――プロバイダー業界の現状をどのように見ているか?

 今どき、ネット接続だけ手掛けていても生き残れない。かといって、トラフィックだ、広告モデルだと力んで外からインターネットユーザーを集めてきても、決してロイヤルティーを得ることはできない。我々には、会員が払ってくれる金に見合った価値を提供することしか、道はない。

 私がドコモAOL社長就任の誘いを受け入れたのは、あくまでも会員向けにサービスを提供するという姿勢が明快だったからだ。外からAOLのホームページを見てもそっけないが、内側にある会員専用ページは充実している。いわば、昔のニフティに近い良さがある。

 ニフティを立ち上げたころは、無料のパソコン通信が多い中で接続料を取るのはけしからん、といった批判があった。それでも金を取り続け、サービスを磨いたから今の地位を築いた。これからのブロードバンド時代、コンテンツ制作にはさらにコストがかかる。プロバイダー業界は今のままでは成り立たない。

――では、AOLにとってのブロードバンドとは?

 Yahoo! BBの登場でADSL(非対称デジタル加入者線)の料金が下がっても、ダイヤルアップユーザーの方がまだ多いから、今すぐ経営に響くわけではない。しかしADSLの利幅は薄く、会員の半分以上がADSLユーザーになったら、接続サービスだけでは事業が成り立たなくなる。AOLはブロードバンドにふさわしいインターフェースと、コンテンツを追求していく。

 常時接続時代になれば、ネットへの玄関口としてプロバイダーの役割が増す。電子メールとWebコンテンツが一体になったAOL接続ソフト独特のインターフェースは、今より強みを発揮できる。マイクロソフトのIEとOutlookには、まねできないだろう。

 コンテンツも動画にすればいい、というものではない。プロバイダー各社がネット放送を鳴り物入りで始めたが、同時視聴可能なユーザーが数百人といった現状では割に合わない。今後は米AOLタイムワーナー社のコンテンツを取り入れ充実を図るが、集客の核になるのはやはりコミュニティーだ。「Yahoo!」や「2ちゃんねる」と違う、有料サービスならではの価値を打ち出したい。

 具体策はまだ明らかにできないが、テレビや雑誌などと連動しながら、時々の話題のテーマについて、意見を交換できる場を作りたいと思っている。ただ会議室を設けるだけではなく、こちらから意見を引き出すことが必要。ネットだけの世界で完結できるというのは思い上がりだ。AOLでは会員同士の素性が分かり安心できることも強調したい。

 1996年にAOLの日本法人ができてから、社長は私でもう5人目。会員数でもまだ業界8位前後で、決して今まで順調だったとは言えない。しかし転換期だからこそチャンスはあると思う。

(聞き手は本間 純=日経エレクトロニクス)