ソフトバンク・グループが12月18日に発表したインターネット電話「BB Phone」のサービスは、ネット電話の決定版と言える。というのもBB Phoneは、「パソコンを利用しなければならない」「送信はできるが受信はできない」「特別な番号を付加したり電話番号を変える必要がある」「110番などの特殊な通話ができない」といった、既存のネット電話サービスの欠点をほぼ解消しているからだ。大和総研の長谷部潤シニアアナリストは「日本でネット電話をビジネスとして成り立たせるには、このやり方しかない」と評価する。

 BB Phoneの商用サービス開始は来春から。当面はADSLサービス「Yahoo! BB」の利用者が対象となる。月額料金は530円(電話機とモデムを接続するアダプターのレンタル料金を含む)に加え、初期契約料が3980円かかる。通話料金は、市内・市外、米国とも3分7.5円。市内通話で現在、最も安い3分8.5円よりもさらに安い。国際電話についても「ほとんどの地域で、最も安い料金に設定した」(ソフトバンクの孫正義社長)。さらに、Yahoo!BBの会員同士なら、通話料は無料だ。

 BB Phoneでは、既存の電話機にアダプターを取り付け、ADSLモデムに接続する。サービスのカギは、このアダプターにある。携帯電話や110番などへの通話と受信は、ネット電話ではなく通常の電話網を利用する。アダプターは、ネット電話と通常の電話の切り替えを自動的に行う役割を担う。大和総研の長谷部シニアアナリストは「その手があったかと感心した」と話す。

 ソフトバンク以外にも、ADSLやCATVの普及に伴ってネット電話には新規参入が相次いでいる。NECが「BIGLOBE」のサービスの一環として11月2日に開始したほか、ADSL大手のイー・アクセス(東京都港区)も2002年1月にサービスを開始する予定だ。さらにニフティ(東京都大田区)も近々、参入を表明する。しかし、いずれもパソコンからかけるタイプで、通常の電話からの通話を受けられない。BIGLOBEの料金設定は市内、市外とも3分10円で、これだと市内通話では割高になってしまう。

 さらにNECや富士通はかつて「電電公社族」と呼ばれ、NTTグループなど電話会社は重要な取引先。彼らに真っ正面から競争するようなサービスを、投入しにくいといった事情もある。それに対してソフトバンクにそうした縛りはなく、思い切った手を打ちやすかった。

 確かにADSLに続きネット電話サービスでもインパクトのあるサービスを投入したソフトバンクだが、値下げ競争の激しい電話サービスへの参入は損失を生むだけ、と収益の面で不安視する声は根強い。孫社長は会見で「Yahoo! BBのインフラをそのまま利用するので、追加の投資は少なくて済む。また、7.5円の収入のうちNTTなどに支払うのは4~5円程度で、十分な利益を確保できる」と強調した。

 ドイツ証券の後藤英紀アナリストは「BB PhoneはYahoo! BBの付加価値サービスと考えている。肝心のYahoo! BBの帰趨がはっきりしていない時点で、株価の材料とするのは時期尚早だ」と見る。しかし、ソフトバンクとヤフーの株価は18日の発表後に急落。ソフトバンクは19日に反発したが、ヤフーは下げ続けた。

 孫社長の思惑通り、利用者が伸びるかどうかは不透明だ。BB Phoneの利用で、すべての利用者の電話代がいきなり半額以下になるわけではない。110番や119番への緊急通報や、携帯電話との通話を考えた場合、NTTとの電話契約が不可欠。当然、これまで通りNTTにも基本料金などを支払い続ける必要がある。長距離の市外通話を頻繁に利用するユーザーや、米国に電話をかけるユーザーならともかく、一般家庭の平均的な通話パターンでは市内通話が半分以上の時間を占めるため、2~3割の電話代削減が精一杯だろう。

(河野 修己=日経ネットビジネス)