プロバイダーがWebサイト上の悪質な書き込みを削除できる権利などを定めた「プロバイダー責任法」が11月22日、衆院本会議で可決・成立する。参議院では、既に11月9日に法案を可決していた。この法案において「プロバイダー」とは、インターネット接続事業者だけでなく、法人・個人を問わず不特定多数の人が書き込みできるサイトの管理者を指す。コミュニティーサイトや、電子掲示板を持つショッピングサイトやオークションサイトなども含まれる。

 法案の正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律案」。掲示板などで他人の権利を侵害する内容の書き込みがあった場合について、次の2項目を定めている。

 1つは、条件によってはプロバイダーが書き込みを削除しても賠償責任を負わないこと。例えば、権利を侵害されたとする被害者からプロバイダーに対して書き込み内容の削除要請があったとき、要請があったことを書き込みした人物に対して伝えたが7日以内に返事がない場合は、削除などの「送信防止措置」をとることができる。

 もう1つは、書き込みを行った発信者情報の開示を、被害者がプロバイダーに請求できることだ。ただし、開示請求した被害者の「権利が侵害されたことが明らかであるとき」に限られ、明らかかどうかはプロバイダーの判断にゆだねられる。

 発信者の「表現の自由」を著しく侵害したり、誤って発信者情報を開示してしまう可能性を考えると、プロバイダーには慎重な判断が求められる。そのため、プロバイダーに故意もしくは重大な過失がなければ、開示請求に応じなくても賠償責任を負わないことを定めている。つまり、「判断に迷ったら開示しなくてもいい」(総務省電気通信利用環境整備室の大須賀課長補佐)という選択肢が与えられている。また、企業に対する批判は「言論活動であり、違法な権利侵害ではない」(大須賀課長補佐)と見なされ、法律の規定外となる。

 これまでプロバイダーの責任が問われた例としては、“ニフティ訴訟”がある。フォーラム(会議室)の書き込みによってひぼう・中傷を受けたとして、東京都の女性が、書き込んだ男性と書き込みを削除しなかったニフティなどに損害賠償を請求する訴えを起こしたものだ。東京高等裁判所は今年9月、男性だけに損害賠償の支払いを命じ、「プロバイダーに削除義務はない」とする判決を下している。また今年8月には、掲示板サイト「2ちゃんねる」に会社を中傷する内容の書き込みがあったとして日本生命が該当部分の削除を求めた裁判で、東京地方裁判所はサイト管理者に削除を命じる決定をした。

(田中 久美子=日経ネットビジネス)