ヤフーが,下り最大速度が8メガビット/秒の個人向けADSL(非対称デジタル加入者線)サービスを6月末にも始める。従来のADSLサービスと比べて最大速度は5倍以上で,月額料金は総額2000円台と半額以下。ソフトバンク関連企業が買収するADSLサービス大手の東京めたりっく通信(東京都中央区)の個人向けサービスを,移管することも検討する。NTTに“敗北”した東京めたりっく通信と協力することで,今度はヤフーがNTTに真っ向勝負を挑む格好だ。

 サービス名は「Yahoo!BB」。6月末にも東京都内で試験サービスを始め,8月には商用サービスを全国展開する計画だ。特徴は,従来のADSLと比較して5倍以上の下り速度と,破格の低料金だ。月額利用料はADSLサービスを利用するための基本料が990円で,回線接続料金が1290円。ADSLモデムなどを買い取った場合は,NTT地域会社に支払う銅線利用料187円を含めても月額2467円となる。モデムなどを借り受けても,月額3017円と格安だ。

 「Yahoo!BB」のユーザーに限定した専用ポータルサイトも設ける。コンテンツプロバイダー85社が音楽や映画,スポーツ映像などを提供する予定だ。広告形態は「ブロードバンドだからといって大きく変えることはしない」(ヤフーの井上雅博社長)というが,動画を使ったバナー広告の利用などを別料金で提供する見通し。さらに,コンテンツの一部を有料で提供する計画で,コンテンツ課金も収益の柱の1つとなる。

 今回の一連の動きは,国内のネット利用者の多くに認知されているヤフーのブランドを最大限に利用し,ユーザーを囲い込むソフトバンクの狙いが見て取れる。ソフトバンクの孫正義社長は,「パイプやアクセス手段だけではだめだ。こだわりをもってコンテンツを集めて初めて,統合的なサービスだ」と語る。

 ソフトバンクは東京めたりっく通信をグループ傘下に収めることで,同社が権利を保有している50万回線を確保した。NTTのADSLサービス利用者は約9万6000人(2001年5月末現在)だが,「Yahoo!BB」への加入申し込みは「予約を含めて初日だけでNTTのADSL加入者を超えた」(ソフトバンク関係者)もようで,一夜にしてNTTに対抗できる一大勢力が誕生したことになる。

 孫社長は「Yahoo!BB」の“仮想敵”は「NTTだ」と宣言する。孫社長はNTTに対して7年前にADSL技術の推進を提言したとのエピソードを明かしたうえで,「その際にNTTはISDNと光回線を選んだ。それが正しい答えかというとノーだ」と語気を強めた。

(瀧本 大輔=日経ネットビジネス)