ネットワーク上に分散したハードウエアやソフトウエア,データなどの資源を,いつでも,誰でも,どこからでも柔軟に利用できるようにする「グリッド・コンピューティング」--。その普及/啓もうを目的とする業界団体「グリッド協議会」が,6月17日に設立された。国内にあるコンピュータ関連のハードウエア・ベンダーやソフトウエア・ベンダー,研究機関,大学などを中心に,160の法人/個人が参加する。

 遠隔地に分散したリソースを仮想的に1台のコンピュータとして処理を実行するグリッド・コンピューティングの技術を使うと,耐障害性を高めたり,処理能力を上げたりすることが可能になる。複数のコンピュータ,あるいは負荷の低いコンピュータに処理を割り当てる,ダウンしたコンピュータの代わりに別のコンピュータに処理を振り替える--などが可能になるからである。

 このようなグリッド・コンピューティング技術を普及/促進する目的で結成された同協議会である。活動内容は大きく2つある。1つは,グリッド・コンピューティング技術の世界的な標準化団体であるグローバル・グリッド・フォーラム(GGF)に標準化すべき要素技術の仕様を提案すること。もう1つは,グリッド・コンピューティング技術の普及/啓もうを計るための発表会などを開催し情報共有を促進することである。

 同協議会の初代会長には,産業技術総合研究所の関口 智嗣氏が就任。会員には,富士通,NEC,日本IBM,サン・マイクロシステムズをはじめとする107の法人と,研究者など53人の個人が集まった。

 グリッド・コンピューティングは従来,1台のコンピュータでは処理しきれないような膨大な演算や解析を必要とする,生物や科学などの研究分野で利用されるケースが多かった。しかし今後は,WebサービスやCDS(コンテンツ配信サービス)などのビジネス分野における基礎技術として利用されると見られている。CPU負荷が低く高速に応答できるシステムに処理を振り分ける,障害が発生したシステムの代わりになるシステムを探して処理を振り替えるといった技術がビジネス分野で生きてくる。「2005年にはビジネス分野での利用規模が研究分野での利用規模を上回るだろう」(米IBMでグリッド・コンピューティングのゼネラル・マネージャを務めるトム・ホーク氏)。

 実際,米IBMは2002年2月,Webサービスのサービス・レベル保証を実現するためにグリッド・コンピューティング技術を使用するという戦略「OGSA(オープン・グローバス・サービス・アーキテクチャ)」を発表した。グローバス・プロジェクトと共同で,Webサービス技術を用いたJavaベースのグリッド・コンピューティング基盤ソフト「Globus Toolkit3.0」を開発する。Globus Toolkitは,グリッド・コンピューティング用のミドルウエアとしては事実上の標準となっている基盤ソフト。2002年末から2003年初頭には,Globus Toolkit3.0の提供を開始する予定である。

 こうした動向をにらみ,すでに欧米では数年前から国家規模でグリッド・コンピューティングに対する取り組みが進んでいる。韓国でも,2001年にグリッド・フォーラム・コリアが設立され,普及/啓もうが図られてきた。今回の協議会設立は,先進諸国に比べて遅れがちだった国内の取り組みを活性化させる目的があると見られる。(H.J.)