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第4回 人間は“AND”“OR”“NOT”で考える機械!?

ウィトゲンシュタインに学ぶプログラミング言語の本質

2003/12/19

 プログラミング言語は,条件判断をするための命題(ステートメント)と,その条件に従ってコンピュータにアクションを要求する命令文(コマンド)の集まりである。この条件判断(IF-THEN-ELSE)には,論理演算子と呼ばれる“AND”“OR”“NOT”が使われる。今回は,この論理演算子について考えてみる。

エイダ(以下A):「最近,おかしなことが気になり出して,不眠症なの」

ウィトゲンシュタイン(以下W):
「それは困ったね。一体,何が気になっているというのかい?」

A:「実は毎年この時期になると,郊外にある別荘に紅葉のスケッチに出かけているんだけど,去年まで近くにあったイチョウ並木が,開発でなくなっていたの。とってもショックだったので,なくなったことを絵で表現したいと思ったんだけど,どうしたらよいのか分からなくて。だって,木がある状態は描けても,ない状態は表現できないでしょ。結局,イチョウ並木だけモノトーンで描くか,思い切って木を書いた上で×印をつけるしかないのかしらって……」

W:「なるほど。『〜ではない』という『否定』をイメージする方法を考えていたんだね。残念だけど,『否定』はイメージや絵では表現できないのさ。それは『非存在』という『存在』が存在するかどうかという,昔からあるやっかいな問題なんだよ」

A:「また難しい話になったわ。でも,変ね。あなたは真か偽の組み合わせが論理空間だと言うわけでしょう。木が存在したら“TRUE”,存在しなかったら“FALSE”になるのよね。木がないことは,論理空間では表現できるじゃない。なのに,どうして現実世界ではイメージや絵として表せないの?」

W:「だから,僕は『論理』空間と呼んでいるのさ。現実世界とは違うんだ」

A:「すると『否定』という“NOT”は純粋に論理的なもので,現実世界ではイメージや絵として存在し得ないってこと?」

W:「ヤー(はい),ご明察。僕はこのことを『アプリオリ』(先験的)と呼んでいる。きみをもっと混乱させてあげようか?」

A:「ますます不眠症になりそうね。でも,聞きたいわ」

W:「いいかい。木がない状況ではなく,そもそも“NOT”が表すイメージを具体的に絵として描けるかい?」

A:「えっ“NOT”の一語だけ? なんかネガティブな感じがするだけね。単にNOTだけじゃ,具体的なイメージにはならないわ」

W:「似たようなものに“AND”と“OR”がある。これも単体としては,具体的な像としてイメージできないはずだよ」

A:「あら,確かにその通りだわ」

W:「実は“NOT”“AND”“OR”は,言葉を使える人間が先天的に理解している概念なんだよ」

A:「もう少し分りやすく言って」

W:「つまり,人間は“AND”“OR”“NOT”で考えるように作られていることになるのさ」

A:「なんだか,人間を機械みたいに言うのね。その考え方は恐ろしい気がする。そういえば,メアリーが書いたフランケンシュタインを思い出したわ」

W:「怖がることはないのさ,エイダ。これは相当,極端な考え方だからね」

人間は機械なのか?

 コンピュータのプロセサが“AND”“OR”“NOT”という回路の複雑な組み合わせでできていることは,ご存じと思う。またプログラミング言語では,論理演算子として“AND”“OR”“NOT”を使用する。私たちは何の疑問も抱かずに論理演算子を使っているが,ウィトゲンシュタインは論理演算子が一体何なのかを徹底的に考え抜いた。
 ウィトゲンシュタインのたどり着いた結論はこうだ。人間には,論理演算子としての“AND”“OR”“NOT”が生まれつき備わっている。この発想を極限まで突き詰めると,「人間とは論理演算子を処理できるように作られた機械」となる。この「人間機械論」という考え方に賛同するかどうかは別にして,私たちが何気なく使っている“AND”“OR”“NOT”は相当深い意味を持つものと言える。なお念のために断っておくが,ウィトゲンシュタインは人間機械論者ではない。

メアリー・シェリーについて


 フランケンシュタインという怪人を知らない人はいないだろう。このフランケンシュタインの著者であるメアリー・シェリーは世界最初のプログラマと呼ばれるエイダ・ラブレースの親友である。この著作が人間機械論やコンピュータと少し,関係していることは,わが国ではあまり知られていない。

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