業種・業務知識

  • 基本的な業務の流れを理解する
  • 図を使った分析が上達の近道

 「業種・業務知識は,顧客にヒアリングして要件定義をまとめるシステム・エンジニアが詳しく知っていればいい。ネットワーク技術者やデータベース技術者には業種・業務知識なんて必要ない」と考えるエンジニアがいるかもしれない。しかし,これは正しくない。「程度は別にして,すべてのITエンジニアにとって業種・業務知識は備えておくべきコアスキル」(馬場史郎氏)である。プロジェクトの各メンバーが業種・業務を全く知らずに開発すると,「顧客の業務に合わないシステムができる可能性が高くなる」(TISでソフト開発の生産性向上や研修などを担当する上西義行技術本部長)からだ。

 NECソフトで物流分野のプロジェクト・マネジャーを務める森内正美第五SI事業部ロジスティクス業SIマネージャーも,「すべてのプロジェクト・メンバーは業務のことを,ある程度知っておくべきだ」と同意する。例えば,企業情報システムで利用するインフラ技術は,Web,データベース,ネットワーク,ミドルウエア,モバイルなど年々複雑さを増している。上流工程のシステム・エンジニアが,これらすべてをカバーするのは不可能だ。プロジェクトに参加する,インフラ技術に詳しいITスペシャリストが基本的な業務の流れを理解していれば,「自発的に業務に合ったインフラを提案できるようになる」(森内マネージャー)。この結果,プロジェクト全体の効率が上がることになる。

 業種・業務知識とは縁がないと思いがちなプログラマにとっても,今後ITプロフェッショナルとしてのキャリアアップを望むなら,業種・業務知識はいずれ必要になる。そうであるなら,なるべく早い時期に勉強しておくべきだろう。

 プログラマが特定の業種・業務の知識を勉強しておけば,その業種・業務のプロジェクトに呼ばれやすい,というメリットもある。業界用語の知識があるプログラマの方が,プロジェクトで重宝されるからだ。

図6 業種・業務知識のマスター方法

業務分析で詳しくなる

 業種・業務知識で,まず知らなければならないのは,対象となる企業の業界用語である。例えば製薬業界なら「実消化」(医者が処方せんを書いて薬を患者に渡すこと。これが製薬会社にとっての売り上げ実績になる)という言葉を知らないと,そもそも顧客と会話ができない。顧客企業の基本的な業務プロセスも知っておくべきだ。

 では,業種・業務知識は,どうやってマスターすればいいのだろう。基本的な知識は,業種・業務に関する市販の書籍を読めば理解できる。これが最初の一歩になる。より詳しい知識を得るためには,できるだけ顧客と会って業務の話を聞く。これが王道だ。

 しかし,ただ聞くだけでは,システム開発に役立つ知識を得ることにつながらない。日本IBMの冨永常務は「まずDFD(Data Flow Diagram)やE-R図(Entity-Relationship Diagram)などの,システム分析・設計手法をマスターするべき。これらを使って業務を分析することで,どんな業務でも構造やプロセスを明解に理解できる。きちんとやれば,担当分野の業務知識しかない顧客よりも詳しくなれる」と言う。

 NECソフトの森内マネージャーも同意見。「自己流でいいから,A0判程度の大きな紙に,対象となる企業の業務の流れ全体をブロックで描いてみること」を薦める(図6[拡大表示])。