第3部 なぜウェブにアクセシビリティが求められるのか

 電話が普及するに従って、視覚障害者の社会参加が進んだことは確かだろう。反面、聴覚障害者に対してはどうだっただろうか? 現在においても窓口などの問い合わせ先は電話番号しか記載されていない場合も多い。そうなると聴覚障害者はちょっとしたやり取りにも困難が伴うことになってしまうのである。

 このように新しい技術を導入することによって、不利益を被る人達がいる。そして現在進んでいるIT化は、電話が登場したときよりも、はるかに多くの人達に影響を与えるのである。

 この影響をデジタルデバイドという。一般には貧富の差などが原因でITの恩恵を受けられない問題として語られるが、日本国内での格差の原因は、端末やソフトウエアを使いこなすのが、高齢者や障害者には難しいことが大きな原因となっている。

 ではどれだけの人が影響を受けるのだろうか? 日本はすでに全人口のうち14%以上が65歳以上を占める「高齢社会」に突入している。更に高齢化の影響を実感する50歳以上の人口は、すでに全人口の半数近くに及んでいる。高齢者にとって新しい技術に適応していくことは大変なことである上に、加齢による身体能力の衰えは、扱いにくいIT機器の操作をより一層困難にさせる。そしてその不便さは障害者も同じだ。

 操作において何らかの不便を感じる人々が増えるにつれ、これまでの大量生産のモノ作りに対して、疑問が持たれるようになってきた。それに呼応するように「ユニバーサルデザイン=できるだけさまざまな人にとって、町やモノを使いやすくすること」という考え方が登場してきたのである。(文:榊原 直樹(ユーディット 研究員))

■合併を機にガイドラインを導入した西東京市

 自治体のホームページでも、ユニバーサルデザインに取り組むケースが徐々にではあるが増えてきている。熊本県は、早くから県としてユニバーサルデザインに取り組んでいる。ユニバーサルデザイン室を持ち、ウェブ作成のガイドラインも公表している。仙台市は総務省のウェブアクセシビリティ実証実験に参加したこともあり、整備が進んでいる。また5ヶ国語に対応するなど、様々な人に読んでもらおうという姿勢が伝わってくる。

熊本県のホームページの画像
熊本県のサイト
西東京市のホームページの画像
西東京市のサイト


 東京都田無市と保谷市の合併によって2001年1月に誕生した西東京市は、新たに市のウェブを構築する際にユニバーサルデザインに配慮した作りとした。すでに大量のページが存在する場合、それらすべてをアクセシブルに作り変えることは難しく、これがネックになり整備が進まないという背景がある。合併のように新たにサイトを作り直す機会にガイドラインを導入すれば、スムースに移行しやすいだろう。


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