第2部 自治体ホームページは行政ポータルへと向かう

■「行政ポータル」とは、現在役所の窓口でできる手続きや情報照会のすべてをオンライン化し、“ワンストップ行政サービス”の窓口となるホームページのことだ。行政ポータルが整備されれば、住民の利便性は高まり、窓口の職員数の削減によるコストカットも期待できる。行政情報だけでなく地域情報をうまく集積することによって、地域の活性化ツールとして有効に活用できる可能性も秘めている。(文:編集部)

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 現在、役所の窓口で行っている手続きや情報照会のすべてがインターネット上で可能になれば、住民の利便性は確実に高まる。窓口の場合、サービス提供時間は8時30分~16時30分といったように限られることが多いが、ネットならば、それこそ24時間365日の年中無休サービスを提供することができる。それだけでない。ネット上にサービスの大半が“移る”ことによって、窓口を担当している職員を削減でき、それに伴うコストカットも期待できる。

 このような“ワンストップ行政サービス”をオンラインで提供するホームページを「行政ポータル」と呼ぶ。ここにアクセスさえすれば、あらゆる行政サービスを部署・市町村・県・国の枠を越えて、いつでも、どこからでも受けられるのが、行政ポータルの理想形態といえる。

 行政ポータルが整備されることによって、他の効果も出てくる。行政ポータルを活用することで、住民はパソコンやインターネットの操作に慣れていき、その結果、住民のITリテラシーは向上する。また、地域の企業は行政ポータルからビジネスに役立つ情報を得ることによって、新たなビジネスチャンスを含めた、活性化する可能性を持っているのだ。

 例えば、指名競争入札を廃止した上でインターネット上にすべての情報を公開して入札申請ができるようにすれば、企業にとっては単純にビジネスチャンスが増える。さらに、行政の持っている地域の地図情報に、学校や警察、消防署の持っている個別の様々な情報を上手に組み合わせたものが自由に活用できるようになれば、フランチャイズ店舗の新規出店調査に有効に使えるかもしれない。

 「行政は膨大な情報を持っており、その情報を組み合わせることによって、従来にはない“価値”を提供することができる。それをどう地域企業の活性につなげるか、行政と市民、企業がこれから検討していく大きな課題ではないか」──行政ポータル事情に詳しいマイクロソフトのコンサルティング本部プリンシパルコンサルタントの西村毅氏は解説する。

 電子商取引委員会(ECOM)電子政府ワーキンググループ主席研究員の大嶋雅男氏は、行政ポータルは三段階で発展していくとしている(※1)。現状は「情報ポータル」で情報提供をメインに行う段階。ポータルは自治体ごとに独立しており、情報の連携などは行われていない。次の段階であるフェーズIの「情報&手続きポータル」では、自治体間の連携はないが、各自治体の行政ポータルでは電子申請や電子調達といった手続きが電子化される。そして、フェーズIIの「官民連携型 情報&手続きポータル」へと進む。この段階では、住民は目的に応じてシームレスに市町村や県、国、外郭団体だけでなく必要に応じて企業のサービスを受けたり、情報の取得ができるようになる。

 
電子政府の進展
対応ポータル
現状
情報提供のみのレベル
・片方向のコミュニケーション
・報道発表、議事録、調査報告書等、各種情報の掲載
情報ポータル
フェーズI
情報提供と個別手続きのレベル
・双方向のコミュニケーション
・情報交換だけでなく、業務プロセスそのものを電子化
・電子申請(業務単位)、電子調達(調達者毎)
情報&手続き
ポータル
フェーズII
統合化された情報提供と手続きのレベル
・業務プロセス全体を変革
・ワンストップ行政サービス
官民連携型
情報&手続き
ポータル
電子商取引委員会の大嶋氏は「電子政府の進化と同期をとって行政ポータルが進化する」という仮説をもとに行政ポータルの発展の段階を設定した。
出典:大嶋雅男 2002「行政ポータル発展への提言」『ECOM Journal』第4号


 フェーズIIの段階に到達するためには、自治体間の情報の連携が不可欠となる。ここに来て各自治体の電子化の進展は著しいが、市や県などそれぞれが異なるシステムで動いているのが現状だ。その異なるシステム間を「XMLやSOAPといった標準技術を使って連携させる」(マイクロソフト 西村氏)というのが一つのシナリオとして考えられる。情報を連携させるには個人情報保護やプライバシーへの徹底した配慮などクリアしなければならない課題もあるが、技術的には既に実現可能の段階にあるという。

■「地域ポータル」と「行政ポータル」を融合

 行政ポータルと同じく、最近よく耳にする言葉として「地域ポータル」がある。地域ポータルは、地域の観光情報やイベント情報、地元企業やお店の情報など、ローカルな情報を総合的に取り扱うサイトだ。地元の商工会議所や商店街などが立ち上げていることが多い(「地域ポータルリンク集」などを参照のこと)。「本日の特売情報」といった“旬な”情報や、「このお店がお薦めです」といった掲示板による情報など、そこでは全国型のポータルではカバーできないようなきめ細かい情報が提供されている。

 地域コミュニティ活性化の手段の一つとして、行政が地域ポータルの構築に乗り出す場合もある。ただし、地域ポータルに載せるための魅力あるコンテンツを作るのは、これまでの役所のノウハウでは難しい。日本総合研究所創発戦略センターの研究員 三木浩平氏は「特殊な技能やノウハウ、センスを持った人間が必要である。運営コストの管理や人的資源の確保が庁内で困難な場合は、運営のアウトソーシングも視野に入れるべきだ」と指摘、運営体制の例として協議会・NPO、第三セクター、PFI(民間資金による公共事業)、PPP(官民共働)などを挙げている(※2)。

 住民の利便性を考えた場合、行政情報にも地域情報にも1つの窓口からアクセスできた方が便利だ。地域ポータルは行政情報を取り込む方向へ動き、一方の行政ポータルは地域情報を取り込んでいく方向に向かうだろう。そうなると、ここでも情報の連携をいかに進めるかがポータル運営のカギとなってくるだろう。

 行政ポータルと地域ポータルとの融合を目指した取り組みも既にある。北海道庁によって運営されている「北海道人」は、北海道全域の総合情報ポータルサイトだ。最終的なチェックは道の総合企画部IT推進室情報政策課が行うが、サイトのサーバー運用やコンテンツの作成は地元企業のデータクラフトにアウトソーシングしている。

 道民やこれから道民になる人のために必要な手続き情報を提供する「手続き便利帳」は、道内の市町村と連携したコンテンツだ。道内の市町村を選択すると、「引越し」「誕生」「育児」などのそれぞれの手続きについての概要、印鑑など手続きに必要なもの、自治体の担当部署の連絡先などを参照できる。将来は「誰でも、どこからでも手続きなどを可能とする電子窓口へと成長していく予定」(「北海道人」ホームページより)としている。トップページにあるリンク集「情報アンテナ」は、行政、民間にこだわらず道内の観光、ショッピング、ビジネス、健康などの情報を掲載したサイトをカテゴリー別に集めてあり、検索もできるようになっている。

「北海道人」のサイト。特集やコラム、インタビューなどいずれも北海道に焦点を当てたコンテンツが揃う。
「北九州情報ネットワーク」のサイト。タウンイベント情報には音楽、映画情報のほか市立図書館のイベントまで網羅されている。

 北九州市の「北九州情報ネットワーク」は、第3セクターの北九州情報ひろばが運営している。グルメ、ショッピング、健康・医療・介護などジャンル分けされたリンクや、体育館予約、図書検索などが揃っているほか、行政のサイトへのリンクもある。民間・行政へのリンクが違和感なく並べられ、1つのサイトの中で融合している。

※1 出典:大嶋雅男 2002「行政ポータル発展への提言」『ECOM Journal』第4号

※2 出典:三木浩平 2001「『電子自治体』実現への道(2)地域ポータルサイト・サービスモデル」『地方財務』4月号(ぎょうせい)



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