■自治体間の格差
  ~大都市の方が平均点は高いが検討する小都市も~

 現在、自治体はHPの立ち上げ段階を卒業して実用の段階へと移行し始めている。自治体HPづくりは1997年に第一次ブームを迎え、その後2000年に第二のブームが到来した。数年の試行錯誤を経て、先行グループがやっと実用化に漕ぎつけたというのが実情であろう。これらの自治体HPにとって課題は山積しているが、大きくは技術的な課題とコンテンツに関する課題の二つに分かれる。

1.技術的な課題

 自治体HPとしてはバリアフリーを目指すべきであろう。児童、高齢者、そして障害者を含む幅広いユーザー層を対象にするわけだから、画面を見やすくする工夫(例、配色や文字の大きさ)はもちろんのこと、目の不自由な利用者のために読み上げソフトを標準装備して欲しい。


荒川区はバリアフリーを意識したサイト作りを行なっている。
 また、アクセシビリティについて言えば、複数のブラウザーや携帯電話への対応は必須になるだろう。2月の時点では、携帯電話に対応している自治体HPは全国で379だけであった。バリアフリー宣言をしている荒川区のHPは参考になるだろう。

 自治体は個人情報をかかえているわけだから、セキュリティーは最優先の課題である。今回の調査では、セキュリティーは評価項目にしなかったが、もし来年も同様の調査を実施すればセキュリティーは最重点のひとつになるだろう。行政と住民がHPを通じてより頻繁に接触するようになれば、情報漏えいのリスクは当然ながら高まるわけだから。また、外部からの侵入やウイルス攻撃への安全対策には十二分の配慮が必要なことは言うまでもない。

 だが、現実の対応には甘さがあるようだ。前述の三重県の電子会議室でもオープンして1カ月も経たないうちにウイルス攻撃に遭い、暫くの間、メール送受信サービスが休止に追い込まれるというアクシデントが、2002年6月にあった(現在はウィルス対策を講じて復旧)。ウイルスを排除するウィルスウォールの不備が原因だった。

 自治体HPがウイルス攻撃を受け、結果的にウイルスを撒き散らす“踏み台”にでもなれば、そのダメージは想像以上に大きい。慎重過ぎるといわれても、セキュリティへの妥協の無いこだわりが必要だ。

2.コンテンツ

 自治体にとってHPは何を意味するのだろうか。

 行政サイドが肝に銘じなければならないことは、「HPを持つことのリスク」である。HP作りは外部の業者に任せても何とか格好がつくが、そのメンテナンス(つまりコンテンツ制作や掲示板などの運営)は自治体職員の仕事になる。いったんHPをオープンすると、利用者ニーズへの迅速な取り組みが期待されてしまうわけだ。

 つまり“閑古鳥が鳴く”ような自治体HPは、職員の努力不足をあつかましく宣伝しているようなものであり、行政の説明責任が問われてもおかしくない。「住民がそっぽを向くようなHPは税金の無駄遣いだ」という批判に対して、納得のゆく回答が示せるだろうか。

 コンテンツの制作は“オール役所”という課題である。HPでは、ユーザーが必要とする情報を分かりやすく(役所用語ではなく)、かつ迅速に配信することが至上命題になる。だが、往々にして役所の縦割り文化と責任体制の欠如が障害になってしまうのだ。日本の役所は、伝統的に集めた情報は抱え込み、公開するものではないという意識の上にあぐらをかいてきた。情報開示を迫られれば、議会答弁にみられるように、複数の職員が手をいれた無味乾燥の作文になってしまう。生きた情報とはかけ離れたものである。

 HPを充実させようとすれば、結局、全組織的な取り組みは避けて通れないものになる。兵庫県篠山市のHPは“カリスマ職員”による手作りの極致だが、それも限界がある。HP担当者だけが頑張る体制では、情報の量や質に限りがあるだけでなく、個人への負担がどうしても過重になってしまう。遅かれ早かれ全組織的な取り組みが必要になる。情報を持っている各セクションが自己完結型で発信するようになるのが理想だ。

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各課にバランスよくITに詳しい人材を配置する秋田市のサイト。
 HP作りの組織化については、秋田県秋田市は先駆者といえる。“電脳中核人”と呼ばれるIT推進担当者が全庁で100人程度(ほぼ各課にひとり)養成され、情報改革の要になっている。当然ながら、HP作成のノウハウはすべてデータベース化され、庁内で公開されている。これまではほとんど“カリスマ職員”個人によって運営されてきた篠山市では、ここにきて各部署にHP要員を育成するための勉強会を立ち上げている。

企業からの条例・例規集目当てのアクセスが非常に多い三重県環境部のサイト。
 HPが組織そのものを変える契機になったケースも実際にある。三重県環境部のHPが隠れたヒットであると前述したが、その成功の裏には部内の横断的な情報共有がある。HPは“メディア”として位置付けられ、環境部全体が編集室のような機能を持っている。毎朝、部内の情報交換を兼ねて若手職員中心の編集会議が開かれ、独自の取材ネタや更新情報の編集方針が決定される。まさに、日刊紙の編集室といった雰囲気である。実際、県職員がジャーナリスティックな文体を習得するために、現役の新聞記者に添削して貰うこともあるという。積極的な情報発信は自治体をここまで変えることができるのである。


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