第1部 自治体ホームページの現状と課題

 「e-Japan戦略」は電子自治体の構築を今年度の目標に掲げているが、現時点において電子自治は予想以上のペースで実現しているようだ。

 2002年(平成14年)2月の時点で、全国3300の自治体の9割がホームページ(HP)を開設している。HPは各自治体のIT時代の“顔”ともいえ、そこから行政の方針や住民への姿勢が驚くほど鮮明に読み取れる。従来の紙情報を電子化しただけというHPもあれば、IT化を契機に新しい行政への脱皮を計ろうという意気込みで元気いっぱいのHPもある。

 電子政府のバーチャル役所であるHPについてのマニュアルやガイドラインは、総務省もまとめておらず、各自治体の自由裁量に任されている。まさに地方分権の象徴でもある。そこで、日本経団連のシンクタンクである21世紀政策研究所は、全国の自治体HPの調査を実施することにした。今年2月にHPのURLを持つ2923の市町村および49都道府県庁のHPをひとつ残さず閲覧し、31の項目(別表参照)ごとに横一列で評価した。

 この項目の中でも、利用者のニーズという観点から次の4点を評価基準の4大柱にした。(1)情報公開、(2)防災と危機管理、(3)オンライン・サービス、(4)双方向性のコミュニケーション──である。まずはこの4つのポイントを再点検してみるだけでも、それぞれの自治体HPの今後の課題が見えてくるはずだ。(文:石川 幸憲(21世紀政策研究所 研究主幹、プログラムオフィサー))

1.情報公開

 インターネットはそもそも情報ツールであって、HPを開設することは情報発信の意思表示でもあるわけだ。それでは、自治体が持つどのような情報にニーズがあるのだろうか。

 まず、規制への関心が高い企業人にとって、条例や例規集をネット上で閲覧できるメリットは計り知れないものがある。例えば三重県環境部のHPは、月間平均ページビューが36万以上あるという隠れた人気サイトだが、企業からの条例・例規集目当てのアクセスが非常に多いそうだ。また、入札情報をチェックする企業人も少なくないであろう。


統計データなど、市政に関する情報提供が充実する舞鶴市のサイト。

 HPは行政と住民の新たな接点になり得る。従来は行政サイドから広報誌やお知らせという形で選別された情報が一方的に流されたが、インターネットはこれを“質”“量”ともに変えることができる。

 予算や決算、記者発表といった資料、統計データなどは、住民が自治に参画する際には不可欠な情報である。例えばアクセスが少なくても、自治体HPにはなくてはならない情報と言える。情報公開が充実しているHPには、千葉県市川市京都府舞鶴市などが挙あげられる。

2.防災と危機管理

 自治体の危機管理の仕組みや情報などは、住民にとって優先順位の高い公共財である。地震などの天災、そして火事や汚染などの人災が発生した時に、住民が自治体に生命や財産の保全を求めるのは当然だ。IT時代の危機管理のあり方としてHPの利用価値は高い。HPは防災情報のリアルタイムでの提供を可能にする。また、家族の音信確認や住民同士の情報交換のための非常用掲示板は、災害時に威力を発揮するだろう。


埼玉県は災害時に情報共有する場をホームページ上に用意する。
 全国で659の自治体が、非難場所といった何らかの防災情報をHPに掲載している。また、80の自治体が非常用掲示板を設営している。埼玉県はこの分野での先進県だ。県庁熊谷市など5市町が協力して「災害時用伝言板ネットワークシステム」を構築、全県的なネットワークになっている。

3.オンライン・サービス

 HPを通じて行政サービスの24時間対応が可能になる。多くの自治体はサービス向上の一環としてHPを活用することに意欲的だ。

 2月の調査時には、580の自治体がHP上で何らかの行政サービスを提供している。例えば、申請書類の電子化や図書館の蔵書検索はほとんどの自治体HPで実現している。そのほかスポーツ・文化施設のオンライン予約などの便宜を提供している自治体もある。この分野での先頭グループには東京都荒川区や千葉県千葉県市川市が挙げられる。

 また、暮らしに必要な身近な情報(ゴミ情報、引越し情報、休日の医療機関など)をHPに掲載することは常識になっている。実際、ほとんどの自治体は暮らし情報の充実に力点をおいているようだ。

4.双方向性のコミュニケーション

 インターネットの特徴のひとつは情報の双方向性である。従来の自治に見られる、行政→住民・企業への情報の一方通行から、時間や場所といった物理的な制約を受けないで、両者の情報交換や対話への移行が可能になるわけだ。地方自治において行政と住民の「協働」が重要課題のひとつになっているが、HPを接点とした両者の話し合いがその前提になるのではないだろうか。

 この意味で、住民との対話の機会をHPに求める自治体も数多くある。意見公募やパブリックコメントの機能を持つ自治体HPが主流になっている。

 もう一歩踏み込んで、掲示板や電子会議室を運営している自治体は全国で700あまりに及ぶが、残念ながら成功例は少なく、そのほとんどは“開店休業”といった状態だ。そうした中、比較的スムーズに運営されている“電子会議室の元祖”である神奈川県藤沢市の「藤沢市市民電子会議室」や、5人の専従職員が外部の進行役「e-エディター」と協働して運営している三重県の「e-デモ会議室」は、ネットを活用した自治のゆくえを占う試金石といえるだろう。


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