■見えてきたICカード化に向けての課題(1)

 この豊田市の実験を通して、健康保険証をICカード化する際の問題点も見えてきた。それは(1)カード単価の高さ、(2)券面の表記、(3)医療システムの互換性である。


【1】ICカードの単価が高い

 ICカードは、一般的な磁気カードなどに比べて記憶できる情報量ははるかに多いが、コストが高い。今回の実験で使われた非接触型のICカードは、1枚2000円ほどのコストがかかる。この価格の高さが導入を妨げるハードルの一つとなっているのだ。

トヨタ自動車の健康保険証
豊田市の健康保険証(補助カード)
  実は、今回配布したICカードのうち、豊田市国保の分については正式な健康保険証ではない。予算の関係で、市内にいる約9万人の被保険者のうち、3万人にしかICカードを配れなかったためだ。厚生労働省からの通達によると、健康保険組合が健康保険証を配る時は保険加入者全員に同じ種類の配らなくてはならない。ある人は紙の健康保険証で、ある人はカードの健康保険証というのは認められないのだ。このため、今回の豊田市国保のICカードは「正式な健康保険証ではなく“補助カード”という位置付け」(豊田市市民部 保険年金課 課長の谷澤政義氏)だったのだ。

 補助カードは実験用の機能を使えるが、それ単体で健康保険証としては認められない。今回実験に参加してもらった被保険者には、従来の紙の保険証と一緒に持ってきて、実験用のシステムを確認するためだけに使用してもらうという面倒な結果となってしまった。

 一方、トヨタ自動車健保は全国にいる19万2000人の被保険者全員にICカードを配布し、正式な健康保険証として利用している。実証実験の予算内で調達できたのは8万6000枚で、残りは組合で自己負担したが、自己負担で用意したカードは実験に使われた高価な「非接触型」ではなく、1枚約700円の安価な「接触型」のICカードを採用している。


【2】カード表面にたくさんの表示が必要

 ICカードのICチップには多くの情報が載せられるため、理論的には1枚のカードに複数のカードの機能を集約することができる。だが、たとえICチップが高機能でも、複数のカードを1枚にまとめることが難しい場合もある。それが券面の表示の問題だ。

健康保険証カードの様式は法令で定められている。

  カードを健康保険証として使用するためには、法律で定められた必要事項を表示しなければならない。これが無いと健康保険証として認められないため、勝手に記載事項を減らすことはできない。

 画像を見れば分かる通り、カードの表面は、被保険者氏名、生年月日、被保険者証の番号などが大きな場所を占めていて、他の情報を表示するスペースは少ない。券面の表示の規定がある限り、何でもかんでも1枚のカードに集約することは無理だし、併用するカードも限られてくる。今回、トヨタ自動車では「社員証と一緒したらどうかという意見も出たが、そもそも社員の写真を配置するスペースがないので検討するに至らなかった」(大橋氏)と言う。