■ITの支援と地道な改革が、集中化のハードルを下げる

 静岡県の総務事務の集中化とアウトソーシングは、まずは成功していると言っていいだろう。成功した理由として、大きく2つの要因が考えられる。一つは、事務処理の手助けとなるIT化が進んでいたこと。そしてもう一つは、継続して行われている行政改革により、県職員の意識も“変化”への対応に慣れている部分があったということである。

市長が登録している様子の画像
庁内システム「しずおかデジタル・オフィス(SDO)」の画面
 具体的に説明しよう。総務事務の集中化には、ITによる側面支援は欠かせない。静岡県では1999年7月の段階で既に本庁職員全員に1人1台パソコンの環境を実現し、庁内システム「しずおかデジタル・オフィス(SDO)」の本格運用を開始している。ここでは電子メール、時間外勤務管理、会議室予約、一部電子決裁など120以上のデータベースが活用できる。

 このSDOからは、伝票関係のマニュアルやQ&Aが参照できるので、ある程度の疑問は自席のパソコン上で自分で解決できる。もちろん、それで総務事務センターへの問い合わせがゼロになるわけではないが、総務事務の人員を削減する以上、職員が「自分のことは自分でやる」という環境を用意しておくことは、集中化の前提条件となる。さらに今後、電子決裁の範囲が広がれば、集中化のメリットはもっと出てくるはずだ(今のところ、総務事務センターの関連業務で電子決裁が導入されているのは旅費のみ)。

 アウトソーシングについてもITの側面支援は不可欠といえる。業務マニュアルがあるとはいえ、SDOに載っているデータベースや経費の自動計算システムがあれば、より素早く外注スタッフが業務に適応しやすいことは間違いないからだ。

 こうしたITによる側面支援のほかにもう一つ、さらに重要なポイントがある。静岡県の場合、行政改革を続けてきた実績から、総務事務の集中化、さらにはアウトソーシングという“変革”を受け入れる下地が、職員側にもそれなりに整っていたという点だ。


静岡県総務部行政改革室室長 杉山純氏
静岡県総務部
行政改革室室長
杉山純氏
 前述のように総務事務の集中化は今回いきなり実施したわけではなく、1997年から段階を踏んで進めてきた。そのほか、1998年からは消耗品の集中管理も実施している。当たり前のことのように感じる読者もいるかもしれないが、規模の大きな自治体としては、先進的な取り組みだ。

  また、静岡県で1997年から毎年作成している「業務棚卸表」の存在も大きかった。これが、アウトソーシングに先立っての調査に役立ったという。「業務棚卸表」とは、県の業務の報告書で、各組織ごとに毎年作成・公開しているもの。つまり「どの部署がどんな仕事をしているのか」が一目瞭然となっているわけだ。業務委託のための調査に必要な基本データは、ここに既に用意されていたのである。このため、調査コストも安く上がった。今回のトライアルも含めての調査委託に関する契約金額は203万円。プロポーザル入札による競争という要素もあって、パソナが思い切った金額を提示した部分はあるかもしれないが、業務内容を一から調査しなくてはならない状況だったら、調査コストはもっと高くなっていただろう。

  「他の自治体が、いきなり同じこと(総務事務の集中化とアウトソーシング)をやろうとしても、そう簡単にはいかないと思います」と杉山室長は語る。長い時間をかけて総務事務の改革ができる下地を作ってきた、という自信の現れだろう。

 総務事務の改革を行えば、これまでは身近にいた総務担当者にお願いすれば済んだことでも、必然的に自分でやるしかなくなる。これを「サービスの低下」と感じる職員もいるだろう。しかし、自治体財政が厳しい中で、“全体最適”を考えるなら「自分のことは自分でやる」という方向での業務改革は避けては通れない。自治体が“ゴーン革命”のようなトップダウン的、かつドラスチックな手法を採るのは、現実的には難しい(民間企業でも難しいのだが)。だとすれば、一歩一歩着実に改革を進め、総務事務を集中化し、部分的ではあるがアウトソーシングするに至った静岡県の事例は、参考になることも多いのではないだろうか。