「地方自治体におけるERPの実現に向けて」
高前田 寿幸  岩手県地域振興部 情報システム課課長
小村 元   富士通 ソフト・サービス事業推進本部
   電子行政事業推進統括部統括部長

 岩手県は、おそらくERP(Enterprise Resource Planning)パッケージの導入を本格的に検討した日本で最初の自治体である。現在は、導入を念頭に、現状の業務や情報システムを見直している段階だ。岩手県地域振興部 情報システム課の高前田寿幸氏は、この事業の背景と狙いを次の3つのポイントから説明する。(文:(編集部))

(1) 「管理」から「経営」への転換
   最近、行政においても民間と同じ尺度で経営状況を評価、検討できる仕組み作りが求められている。つまり、発生主義会計の導入、政策評価システムの充実である。県政では「予算の作成」という業務が大きなウェートを占めるが、それだけではなく決算にも目を向け、どれだけの投資がどれだけの効果を生んだのかを“経営的”に検証する必要の重要性に着眼すべきだという考えだ。
(2) 個別最適から全体最適へ
   部局同士での業務間連携を強化し、ヒト、カネ、モノ、情報といった行政資源の一元化を図る。個別にシステムを開発したため、現状では同じデータを二度入力したり、ユーザー情報を個別に管理するなどの無駄が発生している。
(3) メインフレームからダウンサイジングへ
   ITコストの抑制が狙い。現在は基幹の15業務がオンラインで稼働しており、その年間運用経費は約12億円。費用対効果を見直す必要がある。一方、ネットワークインフラの整備、“電子県庁”の運用など、今後も膨大なIT投資が見込まれており、基幹業務のITコストを抑制したい。

 これら3つのポイント、特に(1)(2)を解決するには、分析系データの効率的な入力やデータ連携が必要となってくる。しかし現在は、数値をその都度集計しており、膨大なマンパワーが必要となっている。このため、基幹業務プロセスを部門や組織の壁を越えて横断的に把握・管理するためのシステムであるERPパッケージが導入を検討しているというわけだ。

高前田 寿幸氏

岩手県の高前田 寿幸氏

  ただし、今すぐにERPを導入するにはコスト面で問題があり、「今後、BPRによる業務改革との有機的な連携なしに導入実現は容易ではない」(高前田氏)としている。もちろん、現在でも導入へ向けて検討を進めており、2002年度には米国サクラメント郡やオークランド市といったERPの先進自治体の調査を行った。また、2003年4月からはCIOを補佐する課長級の人材を民間から公募で確保する予定だ。岩手県では2006年度にホストのリプレースを予定しており、その時期を目指して具体的な取り組みを進めていくという。

 富士通 ソフト・サービス事業推進本部の小村元氏によると、「最適と思われるERPパッケージの導入には、約40億円の費用が必要となる」という。一方、同県の財政状態や現状の業務進行を考慮すると、25億円以下に押さえなければ、ERP導入のメリットはないという判断に至った。

 そこで「小さく始めて大きく育てる」という方針でERP導入の方向を模索、段階的なステップを踏んでの計画を立案している。スケジュール案としては、業務ポータルの作成(2002-2003年度)、各部署間のデータ統合(2003-2005年度)、最終的なシステム統合(2006年度以降)と3段階の計画を立てている。


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