【基調講演2】「ケンタッキー州におけるデジタルガバメントモデル」
アルドナ・K・ヴァリセンティ
ケンタッキー州CIO、全米州政府CIO会議(NASCIO)前議長

アルドナ・K・ヴァリセンティ氏

アルドナ・K・ヴァリセンティ氏

 二つ目の基調講演は、米国における電子自治体の“先進州”の一つであるケンタッキー州でCIOを務めているアルドナ・K・ヴァリセンティ氏。米大手化学メーカーのAmoco Corporationにおいて情報システム関連、カスタマーサポート関連の要職を歴任後、1998年1月にケンタッキー州のCIOに就いた同氏は、ケンタッキー州での実際のCIO業務について講演した。

 ヴァリセンティ氏は、CIOへ就任するにあたってポール・パットン知事から「いくらでも予算を使っていい」と説明されたという。ケンタッキー州におけるCIOの権限の高さをうかがい知ることができる。同州におけるCIOの役割は、以下の5つだという。(文:山田 哲也(イデア・ビレッジ))
  • 州内ITの牽引を行い、必要があればITに関する問題については州議会でもCIOが直接証言する
  • 技術政策の開発を行う
  • 米国内でのITや先進研究におけるリーダーシップ的な地位の確立を模索
  • 州におけるニューエコノミー(ここでは「ITを駆使した情報産業」といった意味)のサポート
  • 行政サービスの効率化と質の向上を図る

 この中で、今回は特に「行政サービスの効率化と質の向上」の話題を中心に講演が行われた。

■行政ポータルの構築は業務改革のチャンス

 ケンタッキー州でCIOにここまでの権限を与えた背景には、CIO誕生の経緯を知っておかなくては理解できないだろう。パットン州知事は、97年に「エンパワー・ケンタッキー」と題したITによる継続的な業務改革ビジョンを打ち出した。そして、州政府の職員にビジョン実現の検討をさせた。ところが、その結論はなんと、「変革は実現できない」というものだったという。このため知事は「ある一人の人間がすべての責任を持ってITの問題を解決する必要がある」と考え、CIOを設置したのである。

 ケンタッキー州のIT関連予算は2年で150億ドル。約3万5000人以上の職員がおり、現在2万8000台以上のデスクトップパソコンを設置。3500カ所のネットワークロケーション、2000台のサーバーを備えている。電子メールのホストアカウントは10万。電子メールアドレスは13万5000個、メッセージ送受信数は月に5000万通を数え、行政にとってなくてはならないツールとなっている。州CIOであるヴァリセンティ氏は、現在これらの管理を行っている。

 ケンタッキー州では、個々の部門が独自のITインフラを持ち、必ずしも他部署と連動していなかったことが大きな問題となっていた。そこでパットン知事が就任した95年、より“水平的に”どういったことができるのか、横断的な共通項は何かを探り始めた。

 まず、管理サポート(会計財務、購買、予算の建て方など)を共通化した。似ている業務が多い許認可、財源(歳入)管理、IT関連インフラ(通信網、データセンター、サーバー)、IT関連調達(パソコン購入、プログラム作成、インテグレーションなど)を集約・標準化することによって、一元化する方向で作業を進めている。

 また「e-government」(いわゆる行政ポータルサイト)でも、“一元化”をキーワードとしている。「住民にとっては、サービスがどの部局の担当であろうがどうでもいいこと」(ヴァリセンティ氏は)だからだ。そのためには、バックオフィスをリエンジニアリングして再編する必要がある。逆に言うと、行政ポータルの構築は業務改革のチャンスとなる。米国では、ケンタッキー州以外にも、ミシガン州、テキサス州などが、行政ポータルの構築をきっかけにして、BPRを進めているという。

 ヴァリセンティ氏は最後に、今後の課題として「セキュリティー」「不況化におけるIT予算の確保」「民間部門とのパートナーシップ」「ネットを利用できない住民との格差」「ワイヤレス技術の導入」などを挙げた。いくつか課題はあるにせよ、コスト削減、経済開発といった面でIT化の推進は必要不可欠だ。また、他の州ともテクノロジー分野でランク付けされ評価を受ける機会も増えており、IT導入の流れは止まることはない。ヴァリセンティ氏は「技術革新のスピードは加速しており、どの段階でITに投資をするか見極めるかがCIOの重要な役割となってきている」と指摘した。

 講演終了後の質疑応答では、「役人の考え方を変え、リエンジニアリングを推進するにはどうしたらいいのか」という質問が出た。ヴァリセンティ氏は2点のポイントを挙げた。「仕事を奪われることはない、ということを保証してあげること」、そして「なるべく多くの職員に参加してもらうこと、巻き込むこと」である。



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