■埼玉県志木市はITに関する職歴やスキルを持つ市民を委員として委嘱し、 市の情報システムの予算や導入計画に目を光らせてもらうことで、市の組織 全体にITガバナンスをはたらかせている。それまで容易に切り込めなかった 教育委員会や水道部などにも影響力を及ぼし、年間数千万円は掛かりそうな 事業計画を見直すといった効果を得られた。(鈴木淳史=広告業務部)
※ この記事は『日経BPガバメントテクノロジー』第8号(2005年7月1日発行)に掲載されたものです。
市民の立場からの遠慮のない意見や監視の目を利用してITガバナンスを機能させている自治体がある。埼玉県志木市だ。同市は、少人数の25人程度学級の実現や職員の常勤体制の緩和など、穂坂邦夫市長(当時)による改革で全国的にも注目を集めている自治体だ(注1)。「市民参加と協働を推進する」行政運営は、穂坂市長が提唱していた「市民がオーナー、市長はシティマネージャー」という基本理念に基づき積極的に進められている。
(注1)穂坂氏は、2005年6月30日に1期4年の任期のみで市長を退任。
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市の情報政策に関しては、市民で構成する「志木市民委員会のIT部会」と「志木市情報システム検討委員会」という組織がチェック機能を担っている(図1)。詳しくは後述するが、小中学校をはじめとしたIT調達の適正化の局面で有効に機能し始めている。
■図1 市民委員会のIT部会と、情報システム検討委員会の関係 |
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市民委員会のIT部会と、情報システム検討委員会はそれぞれ独立した組織だが、二つの組織を兼務する委員もいる。
■二つのIT関連の市民組織は役割を分けて住み分け
市民委員会のIT部会と情報システム検討委員会はその役割が異なる。
市民委員会のIT部会は、中長期的な視点で、全体最適の観点から市のシステム関連予算や市の情報化推進計画を検討し意見する。もう一方の情報システム検討委員会は、短期的な視点で、市の各課・各組織が構築を計画しているシステムについて、機能やコストが適切かどうか精査する役割を担う。
市民委員会は、穂坂市長(当時)が当選した2001年11月10日に、市民主体自治を実現するための「志木市市政運営基本条例」に基づいて発足した。市民委員会の委員は、原則的に市民または市内勤務者からの公募により、市長が委嘱する。任期は2年である。「志木市民委員会設置要綱」と「同運営要綱」、「志木市民委員会規約」などに基づき活動を行う。委員の報酬は無償。現在、市民委員会は分野ごとの計8 部会で構成されており、市役所の部署と対応する通常の部会と、特命の部会( IT部会のみ)に分かれる。第1期のIT部会には18人が所属した(現在の第2期は15人)。
その後、IT部会に加えて情報システム検討委員会を設置した(2002年4月1日に正式に発足)。「市民委員会のIT部会員の間にはITに関する知識に差があるので、技術的な面で予算や政策を評価できる少数精鋭の専門家組織が別途必要」との提案が市民委員会設置直後にあったためだ。
情報システム検討委員会は、「情報システムに関し学識経験を有する者及び市政に深い関心のある者」の中から市長が委員として委嘱し、5人以内で構成する。任期は2年。当初第1期は、計4人の構成でスタートした(現在の第2 期は3人)。情報システム検討委員会の委員は「志木市情報システム検討委員会設置要綱」や「同運営要領」に基づき活動する。
無償参加の市民委員会に対して、情報システム検討委員には市が月額3000円を支給している。月1回、2時間程度の一般的な委員会の会合費用を基に算出した。しかし、情報システム検討委員の実際の活動時間は、メールを介した意見交換や調査など、ゆうに月間2時間を超えており、ほぼボランティアと同じ状態だ。