Q8導入している自治体の事例を教えてください
 
 
 地方自治体の場合、一般的に民間企業に比べて新しいシステム導入に慎重な傾向があります。しかし、最近ではオープンソース・ソフトでシステムを構築するケースも出てきました。オープンソースを採用する理由は自治体によって様々です。

 庁内グループウエアをLinuxプラットフォームで構築した東京都目黒区の場合は、安定性やセキュリティの高さへの期待感に加えて「コストの安さ」が導入の決め手になりました。目黒区経営企画部情報課の伊東桂美課長によると、「Windowsプラットフォームでドメイン管理やメールサーバーを運用するのに比べて500万円ほど初期コストを抑えることができた」とのことです。

 沖縄県は、財務会計システムのサブシステムである「予算編成支援システム」にLinuxサーバーを採用しています。汎用機からPCサーバーに移行することによって、新規ソフトウエアの開発コストと汎用機の運用保守コストの削減を狙ったものです。沖縄県ではUNIX系OSを使っていた経験があったため、まずLinuxの採用が検討されたという経緯があります。

 「オープンソースでシステムを構築したかった理由は、今後どの業者に頼んでも引き継ぎができるという点を重視したからです」──こう語るのは山梨県企画部広聴広報課の丸山孝主任です。山梨県は、Linuxサーバーで県のWebサイトのサーバーとコンテンツのデータベース管理を行っています。

 長崎県は、オープンソースで電子県庁システムを構築する計画です。長崎県では、地元の中小業者が入札に参入しやすくするため、入札段階でできるだけ具体的な要件定義書を出したり、発注の単位を細かく分けるという取り組みをしています。ソースコードが公開されていて自由に改変できるオープンソースなら、分割発注しやすいというメリットがあります。つまり、オープンソースの特徴を生かして地域のIT産業を活性化させようという構想を描いているのです。(文:黒田隆明(編集部))

■自治体間で電子自治体システムのソースを共有

 厳密な意味では「オープンソース」の定義からは外れますが、自治体間でソースコードを共有することで開発コストを抑えようという動きもあります。総務省では、16都道府県を選定し、電子自治体システムを共同開発するという事業を行っています。このプロジェクトで開発されたソースコードは全国の自治体に無償で公開する予定です。

 福岡県では、電子自治体システムのための共通基盤の構築に着手しています。J2EE(米サン・マイクロシステムズ社が定めた言語「Java」による企業システム構築のための仕様)を採用したこの共通基盤は、オープンソースの概念を採用しており、まずは宮城県と情報を共有し、さらには県内市町村や他府県にも積極的にソースを公開していく計画です()。

 まずは任意団体「地方分権研究会」加盟自治体に対して公開していく(プレスリリースより)。宮城県も同様の構想を持っていたが、福岡県の計画が先に進んでいたため、福岡県で開発した共通基盤を宮城県も活用することになった。共通基盤開発を受注したのはブラクストン、伊藤忠テクノサイエンス、ニシム電子工業の3社で、受注金額は1億1600万円。著作権は福岡県に帰属するという契約になっている。「2003年度中に共通基盤の開発を終え、2004年度から個別のアプリケーションを載せていく。アプリケーションについては、最初にまずは申請調達システムを載せる予定」(福岡県企画振興部高度情報政策課の溝江言彦情報企画監)だと言う。

 「共通基盤」とは、電子申請、人事、財務会計などの電子自治体アプリケーションに共通する機能、例えばセキュリティや職員認証、電子決済などの機能を搭載するための基盤と考えると分かりやすいでしょう(下図)。このような共通基盤が出来上がれば、共通機能部分の重複開発が避けられるのでコスト削減につながります。また、共通基盤を採用した自治体間でソースコードを公開し合えば、最低限の改変で他の自治体のアプリケーションを活用することも可能となり、ここでもコスト削減が見込めます。

■共通基盤適用後のアプリケーションのあり方の概念図
共通基盤適用後のアプリケーションのあり方の概念図
出典:福岡県

 コスト削減効果はもちろんですが、実はこの福岡県の共通基盤は、むしろ地域IT産業振興を第一の目的として構想されたものです。共通基盤を作ることによってアプリケーションの分割発注がしやすくなるので、大手企業ほど体力のない地元企業でも受注しやすくなります。

 さらに運用についても、地域IDCである「ふくおかiDC」の活用を予定しています。地元企業に運用を任せることができますし、統合管理することでコストを抑えようという狙いもあります。同時に、地元企業の人材教育やコンサルティングを受け持つNPO(非営利組織)「高度人材アカデミー(AIP)」も発足させ、地域IT産業の“脱・下請け構造”を目指しています。


 政府レベルでも、基幹システムでのオープンソース導入が検討されています。7月9日付けの日本経済新聞は、1面トップで人事院が全省庁の人事・給与システムにLinuxを採用したと報じました()。

 『日経コンピュータ』誌によるその後の取材により、落札した3社(富士通、日本IBM、沖電気工業)の提案は、サーバーのOSとしてLinuxを採用することを前提としたものであることは事実だが、「調査分析、設計の過程で、システム要件とパフォーマンスの検証を行って、最適なOSを決定する」という段階で、Linuxを全面採用すると決めたわけではないことが判明した。

 また、オープンソースについて研究しようという動きも登場しつつあります。総務省は6月27日、「セキュアOSに関する調査研究会」の第1回会議を開催しました。この会議の目的は「電子政府・電子自治体等のシステムへのオープンソースOS導入の在り方の検討に資することを目的として、オープンソースOS、および非オープンソースOSについて、セキュリティ面、運用面、コスト面等の様々な観点から、そのメリット・デメリットの客観的・中立的な評価を実施する」ことにあります。まずは、政府調達において、オープンソースOSも商用OSと同じ土俵に上げようという機運がうかがえます。
 
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